>> 私の彼は肉食獣



「お前――何だそのカッコは」


 そこに琉夏がいたなら「コウ、口あいてるよ」とツッコミが入りそうな顔で、琥一は妹分から「俺の女」に変化した彼女を見つめていた。
 付き合い始めて半年、未だキス止まりで体を重ねたことはない。今日も久々に家に遊びに来て、帰る前にシャワーだけ浴びたいというから貸しただけ、のはずだった。

「あの、その、コウくん」
「お、オウ。何だ」
「今日、……泊まっても、いい?」

 その白い頬を綺麗なピンク色に染めながら、消え入りそうな声で彼女は言った。泊めるのは構わない。連絡さえすればお互いの家族公認のことだし、琉夏も今は家を出てしまいここにはいない。
 問題なのは、その体が何故かシャワーあがりのまま――一糸纏わぬ体に、タオルだけを巻いただけの姿で彼女がそのお願いをしてきたことにあった。
 そしてそのまま硬直する琥一のそばに歩み寄り、一つしかないベッドにへたりと座り込む。

「……一緒に、寝てもいい?」
「アァ!? 何言って…」
「だめ?」

 小さい時と変わらない、潤んだ目で見上げられてしまい、それ以上何も言えなくなってしまう。
 勝手にしろ、とだけ発して電気を消して横になる。するとごそ、と音を立てて彼の背中側に暖かい何かが入り込んだ。

(…!)

 掛け布が後ろへと引っ張られ、それにあわせて花のような甘い香りが琥一の背に触れる。そのわき腹の左右に細い手が差し伸べられたかと思うと、きゅ、と背後から彼女に引き寄せられた。
 それだけなら良かったのだが事もあろうか、タンクトップの背中越しにも分かるほど柔らかいそれが押し付けられ、挙げ句どう考えても下着をつけていないと分かる突起物が二つ、琥一の背中に触れたのだ。

「……――おい!」

 我慢は早々に限界を越え、たまらず起きあがると、彼女をベッドに座らせ掛け布を頭からかぶせた。荒々しく息を吐く琥一の前に、きょとんとした彼女。布の隙間からのぞく体はやはり裸で、こいつマジであのまま寝やがったな、とがしがし頭をかく。

「……コウくん?」
「お前、自分が何やってるか分かってんのか?」

 頭からかぶったままの掛け布をとり、その体を覆うよう彼女の肩に掛け直してやる。

「お前にゃまだ、そういうのは早えよ」


 抱きたくないわけではない。出来るなら今すぐ組みしいて足を開いて、劣情を押しつけて泣かせたい。だが、今の自分はそれが出来る立場ではない。卒業後親父の仕事を手伝い始めたとはいえ、まだ見習いもいいとこだ。早く一人で稼げるようになって、こいつの両親が納得するような男になってから。それが俺のポリシーだ。
 だが彼女の方は琥一のその言葉に違う解釈をしてしまったらしい。


「…私が、まだ子どもだから?」
「……ハア?」

 白いケープをまとったかのような彼女から返ってきた答えに思わず面食らう。と、次の瞬間彼女が琥一のベルトに手をかけた。

「バカ、止め…!」

 下着をおろしこぼれ出た男性器を少し戸惑いがちに口に含む。思わずのけぞる琥一の隣にぺたりと座ると、その竿に手を添えちゅる、と吸い上げた。

「…いいから、離せッ…」

 必死に堪える琥一をよそに、彼女はふるふると僅かに首を振る。次いで雁首から中程までにその赤い舌を丹念に絡みつかせ、再び先端を舌先で刺激する。
 その咥内は恐ろしいほど柔らかく、思わず浮きそうになる腰を必死に抑える傍ら、更に強くじゅぼ、と音を立てて琥一自身が彼女の肉厚な唇に飲み込まれるのが見えた。その姿がたまらなく淫靡で、思わず下半身に力が加わる。その瞬間唐突な射精感に見舞われ、堪える間もなく白濁としたそれを吐き出してしまった。

「クッ……悪ィ、すぐに、」

 吐き出せ、とは言葉にならなかった。琥一のそれをくわえたままの彼女は、溢れ出た精を余すことなく飲み込んでいた。射精が終わるとゆっくりと肉棒を嘗めとり、上体を起こす。


「コウくん、私、もう結構大人だから、その……大丈夫だよ?」

 その唇を赤い舌がちる、と舐める。てらてらとグロスを塗ったかのようなその艶と、相反する白雪のような肌。知らず一度放ったはずの欲望が一点に集まり、琥一のポリシーを打ち砕く。その姿は高校生の彼女とは違う色香に溢れ、完全に開ききる直前の花のようだ。
 そういえば、ローズクイーンに選ばれたのだと言っていた。あの時から俺は女王様を守る番犬になったとばかり思っていたが、――どうやらこの女王様はその番犬すら狂わせてしまうらしい。



「……そうみてぇだな」

 少しだけ体を起こし、座っていた彼女の腰を両手で抱え上げる。

「――!?」
「好きな女にここまでさせるなんざ、俺の美学に反するな」

 大切にしたいのも本当だ。
 だがこいつにここまでさせるほど不安にさせておいて、ポリシーも何もあったものじゃない。

「……いいぜェ、可愛がってやるよ」

 言うなり抱え上げた腰を自らの前に引き寄せ、開いた彼女の足の間に顔を置く。当然琥一の眼前には彼女の赤く熟れた割れ目が大きく口を開けており、ためらいもなくそこに舌をのばす。

「――やあっ!」

 互い違いに重なりあう二人の前には互いの性器があり、彼女の前には再び硬度を取り戻したペニスが首をもたげた。おずおずと舌をのばし、彼女もまた口に含む。するとぶるんと分かりやすく震え、彼女の秘部への愛撫も一層高まる。

「ん、ふあ、ん」
「……ふ、随分濡れてんな、何だァ? 俺のくわえながら濡らしてたか」
「ん…! ン、ン―!」

 口いっぱいに頬張り発声もままならない彼女にクッ、と笑みを浮かべ舌での奉仕に更に拍車をかける。
 見事なまでにぱくりと口を開いたそこに指を差し入れ、溢れ出る液体を掻き出すように折り曲げるとぷちゅ、と音を立て滴がこぼれた。たまらずむしゃぶりつくように舌を差し入れ吸い上げると、琥一の体を跨ぐようにしてベッドについていた膝が震え、ペニスへの刺激が僅かに収まる。そのまま、じゅる、じる、とわざと音を立ててすすり上げてやると、声にならない悲鳴が漏れた。

「ン……、ン―!」
「ンだよ、口が止まってんぞ」

 オラ、とばかりに下半身を跳ねさせると、思い出したように口撫を始める。やわやわと包み込まれる感触を堪えながら、うつ伏せで四つん這いの彼女の太ももを大きな手で掴んだ。そのままぐいと左右に開かれ、赤く腫れた大陰唇の内側がこれでもかとばかりに空気と琥一の目の前に晒されてしまう。

「ハッ、こりゃあいい眺めだなぁオイ」
「ふ、ン…ンン―!」

 生々しい匂いのするそこに琥一の舌がねと、と接着する。ぴちゃ、ぴちゃと白い糸を引き、ざらざらとしたその面をこすりつけるように舐め上げる。奥から上へと何度も何度も熱い吐息が走るたび、四つん這いで浮かされたままの尻が引き上げられるように上へ上へと動く。そしてその奥にあるクリトリスを琥一の舌がねぶりとり、じゅるんっと深くしゃぶりあげた瞬間、ひく、と彼女の体が硬直し、だらりと弛緩した。


「チッ、……おい、まだ終わってねぇぞ」

 そう言って短く笑うやいなや、彼女の口から自らのそれを解放し、二人重なりあった体勢から体をずらす。
 うつ伏せた彼女は起きあがる気力もないのが顎と手をベッドについたまま腰を高く上げ、琥一はその下から抜け出るように上に体をずらす。そして半勃ちのペニスが彼女の濡れそぼったそこに引っかかったところで、膝をつき、彼女の腰を掴んだ。

「オラ、しっかりくわえろよ」

 くち、と入り口が音を立て次の瞬間ミリミリミリ、と体が裂けるような痛みが走った。声にならない悲鳴をあげる彼女をよそに、後ろから突き立てたそれを僅かに抜き差ししながら角度や向きを変え押しつけてくる。やがて耐え難い激痛の向こうに、かすかにむずがゆさとも甘い刺激とも感じられる何かが生まれた。

「あ、あ、コウ…ああッ…!」

 耐え続ける彼女はベッドのシーツをきつく握りしめ、背後から突き上げられる衝撃にひたすら耐える。その姿を見ながら、琥一もまたやがて訪れる絶頂を危惧していた。
 破瓜の血が先走りの液体と混ざり落ち、細かな泡を立てる。その丸く柔らかい尻の谷間を押し開くと、なおも緩急つけて責め立てた。

「……チッ」

 滴る汗が彼女の背に落ち、覆い被さるようにその尻を、太ももを彼の腰の下に組み敷く。ぱん、といやらしい水音に混ざって腰と尻とがぶつかる音が部屋に響き、階段を駆けあがるかのように琥一の突き上げが性急なものになる。そして深く息を吐き、ふ、と笑ったような気がしたその一瞬、腰を強く押さえつけられ最奥部まで熱い迸りが届いた。お腹の下にたまっていくその感触を味わいながら、彼女はそのままゆっくり目を閉じる。眠りに落ちる刹那、背中に優しい口づけが落ちた気がした。








「……ハア?」
「だからね、琉夏くんが……『コウはシャイだから押し倒しちゃえ』って……」

 そのたくましい腕の中で彼女の消え入りそうな声が更に小さくなる。

「『多分、まだお前を子どもだとおもってるんじゃないかな』……って言われて、その」
「……ルカのやろう」

 その内油断していたら『俺が代わりに慰めてあげようか』とか言い出しそうだ。あいつならあり得る。

「あ、あとね、『近いうちにご両親に挨拶に言った方がいいよ』って言っといて、だって、琉夏くんまた帰ってくるのかな」
「あーいや、そりゃ……」

 恐らくこの場合の両親とは琉夏と琥一のではなく、彼女の、だろう。




――『俺から盗られたくなかったら、一人前うんぬん言う前にしっかり捕まえてて?』
「……わぁったよ」

 ここにはいない、生意気な弟がそう言っているような気がして思わず苦笑する。その様子にん? と見上げてくる彼女を腕の中に抱え込むと、ベッドの中、誰にも見えないようキスを落とした。



(了) 2010.09.02

にいちゃん、何で琥兄は何しゃべってもどSになるん?

せつこ、それは声が諏訪部さんやからやで

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