>> 相対する、君と共有する時間



 ねえ、どうしてアンタは俺の「先輩」なの?



「新名君もいよいよ受験生なんだね」
「……にゃーに突然」

 勉強机の前に座っていた新名が苦笑を浮かべながら振り返る。その視線の先には本棚から模試用の問題集を見つけだし、懐かしむようにめくる彼女の姿があった。
 久々の部屋デート。ベッドの脇で揺れる、ミニスカートからのぞく白い足に少しだけときめいた。何で部屋で会おうって言うといつもミニスカートなんだろ。挙げ句俺のベッドなんかもう定位置になっちゃってるし。
 嬉しいけど、相変わらず危機感ていうの? 足りないなーって思うのと同時に、やっぱまだ俺男として認識されてない気がする、とひとしきり逡巡してへこむ。一応、つきあってんのに。

「ほら、三年だしそれなりに〜って感じ?」
「そうなんだ? ……あ、こんな問題やったなあ懐かしい〜」

 そう言いながら楽しそうに問題集をめくる彼女の言葉が胸に刺さる。

(……俺だってアンタと勉強したかったっての)

 そう、全ては「懐かしい」なのだ。
 文化祭の出店だって、修学旅行だって、受験勉強さえも。その端をわずかに共有することは出来ても、嵐さんやあの桜井兄弟みたいに同じ時間を味わうことは出来ない。
 たった一年。それがこんなにもアンタとの距離を作るなんて思ってなかった。

「私で分かるとこなら教えるからね!……って新名君頭いいから関係ないか」
「ん―ん、ありがと。頼りにしてマス」

 大学生と高校生なんて。俺が狭い教室で必死に受験勉強してる時に、アンタの周りには二つも三つも年上の男がいるなんて。ああ――ヤダヤダ。
 キィと椅子の背もたれが音を立てた。ゆっくり立ち上がり、ベッドで問題集を読みふける彼女の側に歩み寄る。蛍光灯が落とす新名の影に気づいたのか、その黒目がちな目がついと上を向いた。

「じゃあさ、早速一つ教えてもらっていーい?」

 肩に手をかけ、乱暴に押しつけるようにキスをする。そのままベッドに押し倒し、何度か角度を変えてチュ、チュとわざと音を立ててやると、時折ん、と苦しそうな声をあげる。



「そのカッコとか、何考えてんの」

 組み敷いた体が震えるのが分かった。いくら年上だと言ったところで、俺がこうやってちょっと押さえつけるだけで身動き一つとれない。小さい体に、つやつやと鮮やかな唇。蝶を誘う花のような甘い香りもする。
 アンタが部屋に来るたび、俺はいつだってどうかなりそうなのを必死に押さえてんのに、そんな気持ちお構いなしに俺を翻弄する。

「『年下だから、大丈夫』……な〜んて思ってんならその考え、改めた方がいいと思うよ?」
「……新、名、くん」

 その掠れた声に、一瞬で現実に引き戻された。
 慌てて彼女を見ると、苦しそうに真っ赤になった顔と緊張しきった体が目に飛び込む。完全に怯えている。
 ああもう、俺の馬鹿。マジで馬鹿。怖がらせたいわけじゃないっつーの。


「……ごめん、やりすぎた。でもほんと、年下だけど……俺も男だし?」

 肩から手を離し、ヤダヤダと小さくぼやきながら体を起こす。とりあえずこれだけ警告しとけば大丈夫じゃね、と心の平静を取り戻そうと、うち捨てられた問題集を拾い上げる。

「アンタがいいって言うまで無理にしたくないし。だから――」

 しかしその瞬間、新名の手から再び問題集がこぼれ落ちた。
 それもそのはず、先ほどまで震えていた彼女が、新名の服を掴み、自身の唇を押しつけるように新名の口に当てさせていたのだ。
 

「いいって言ったら、良いの…?」
「え、なに、ちょっと、――うわっ!」

 思わず起こしかけた上体を下ろすと、その体をきゅ、と抱きしめてくる。あの、何か俺の胸に柔いものが当たるんデスけどこれなに。

「私も、その……年上だから、頑張ってリードしなきゃ、って」
「……えーと?」
「でも、なかなか上手く、言えなくて」

 しばらく考え、あーと心の中で納得する。
 俺が「年下」だからと頑張っていたのと同じように、彼女も「年上」のプレッシャーにいっぱいいっぱいになっていたようだ。

(どうしよ――可愛い)

 ぎゅうと更に抱きしめてくる彼女が愛おしくて、その頭を撫でてやる。ふわりと笑みを浮かべたその姿を見、新名はこくりと喉を鳴らした。

(年上に甘えられるのも、何つーか……悪くないよね)






 ベッドの中央に体を横たえ、互いの足が交互になるよう体を重ねる。その細い腰を押さえ、もう一度彼女の唇に好意を落とす。

「……ね、怖くない?」

 うん、と落ちた小さい声を噛みしめながら、すり寄るように頭を彼女の胸に寄せた。服を着ていても分かる豊かな曲線が頬に触れ、たまらず猫が飼い主に懐くかのように甘えてみる。

「マネージャーしてる時から思ってたけどさ、結構胸、あるよね」
「そ、そんなこと無いって!」
「いーや、ぜってー他の奴も知ってたって! 嵐さんだって気づいてたし」
「ええええ!?」

 正確には「アイツスタイル良いよな」という話を聞いただけだが、あの嵐さんが言うぐらいだから他の奴はとっくに気づいてたと思う。
 その憧れの丘陵の間に顔を埋めながら、ぐいと足を動かす。ミニスカートの中に俺の太ももがすっぽりとはまり、そのまま体重をかけてぐりぐりと刺激してやる。
 分かりやすく体がすくむのを楽しみながら更に力を加えると、そこからたまらない熱気がこみ上げてきた。

「あれ、ちょっと濡れて来ちゃったカンジ?」

 肘で上体を支え、もう一方の手をスカートの裾から太ももを滑らすようにして差し入れる。付け根を掴みながら親指だけをぐり、と押し込んでやると、流石に下肢が飛び上がった。

「いっ……!」
「うわっ、ゴッ、ゴメン! ……ん〜やっぱちょっと慣らした方がいいのかなあ」

 そう言うと一旦体を起こし、彼女の脇へと体をずらすとスカートのファスナーに手を伸ばした。ジジ、と細やかな音を立て解放された刹那、するりと曲げた足を通って脱がされてしまう。
 上は着たまま、下は下着だけという奇妙な格好に、たまらず彼女も声をあげる。

「や、ちょ、は、恥ずかしい…!」
「だいじょーぶだって……アンタ、全部綺麗だし」

 再びちゅ、と唇を落としながら彼女の頭の下と、固く閉じられた両足の付け根にそれぞれ手を伸ばす。上半身はぎゅっと抱き込まれ、彼女の顔が新名の胸板に密接する傍ら、もう一方の手がそっと下着の隙間から性器を探り始める。更に彼の片足が挟み込むように彼女の足に添うようのばされた。
 横から覆い被さるように抱き込まれ、手だけ足の間に挟み込んだその姿勢に、思わず身をよじる。

「あ、あの、新名くん…!」
「待ってて、……すぐ気持ちよくしてあげる」

 彼女の制止も聞かず、人差し指と中指をくっつけたままぐい、と外側のひだを探る。その下の方に狙いを定め、ゆっくりと指先が円運動を開始した。
 自分でも触れないような場所に、男性の大きな長い指が触れている事実に、一層羞恥心が高まる。細やかに揺するような動きを繰り返すうち、むずかゆいような感覚と下半身の疼きを覚え、たまらず足を閉じる。

「っと…、そんなに締めちゃダーメ。手が動かせないっしょ?」
「あ、ごめん、ん」

 慌てて力を緩めると、そのタイミングを図ったかのように中指の先が割れ目を押し開いた。異物感に慣れるその間に、なおも顔や髪に口付けられる。意外とキス魔なのかもしれない。
 いつの間にか中指が第一関節ほどまで体に飲み込まれており、痛みも殆ど無くなってきたのを察したのか、更にもう一本薬指が増やされにちゅ、と入り口が音を立てた。だが先ほどまでの痛みはなく、逆にもっと奥まで触れてほしい欲求に飲まれる。

「……痛くない?」
「だいじょぶ、みたい……あの、もっとしても大丈夫、そう」
「ん、オッケ」

 新名は少しだけ口角を上げると、指を反らせるようにして二本を根本まで突き刺した。流石に少し痛みがあったがすぐに薄れ、やわやわとかき混ぜられる感触に、次第に彼女から声が漏れ始める。
 熱く狭まる膣の中をくちゅりくちゅりと犯し、時折緩く抜き差しする。と、ある一部の側面に指の腹が触れた瞬間、再び彼女の足が擦り寄せられた。

「…あっ! 何か今のとこ、や…!」
「りょーかい、今のがアンタの気持ちイイとこね」

 彼女の力が緩まるたび、重点的にさっきの場所をこする。既に幾度となく抜き差しされた秘部はいやらしく愛液まみれになっており、同じくべたべたに濡れた新名の手が出入りするたび、シーツの色が鮮やかに変わった。
 いつの間にか三本に増やされた指が、彼女のそこを拡張するかのように乱れて動き、たまらず身を屈めると新名も自身の足で彼女の足を挟み込み、逃がしまいとばかりにじゅぼ、と手を激しく抜き差しする。上体を抱え込まれていた腕はいつしか脇の下へ抜け、服の上からその豊かな膨らみを揉みあげている。

「や、やああ…! も、だめ、何か来ちゃう…!」

 顔を背け、いやいやをする彼女の首筋に新名の熱い息と唇が触れる。その瞬間、びく、と腕の中にいた体が震えだらりと弛緩した。手のひらにじわりと暖かい液体が広がり、達したことを悟る。

(……やっべ、やりすぎた)

 自分の下半身に宿る熱をどうしたものかと途方にくれる。このまま最後まで行きたいのはやまやまだが、どうやら初めてらしい彼女に無理強いはしたくない。
 仕方なくどこかで処理しようと上体を起こす。……が、先程まで真っ赤になって快楽に耐えていた彼女が、新名の胸に手を伸ばしていた。

「……何どーしたの、…気持ちよかった?」
「新名くん、は?」
「え?」
「新名くんは、気持ち良かったの?」

 気持ちイイかと言われるとまだ全然だ。でも彼女が自分の手だけであんなにやらしく変わる姿を見られただけで、今日は充分だ。続きは彼女がもっと俺を怖がらなくなってからでいい。

「……ん。もうサイコー、気持ち良かったし?」

 だが彼女は新名から目をそらすことなく、彼の胸に手を這わせ、そのまま顔を上げて下から口付けたのだ。解放後、何が起きたか分からぬまま、彼女を見ると、涙で濡れた目で小さく笑った。


「……うそつき」
「……ッ!」
「私なら大丈夫だから、最後まで、……して?」




 ああほら、だから年上ってずりーよ。せっかく俺がなけなしの理性総動員していいカッコしてんのに、その壁を一言で簡単に壊してくれちゃってさ。
 もう知らない。だって俺年下だし。わがまま言ってやる。

「……そーんなこと言って、ぜってー後悔させてやる」

 言うが早いか彼女の体を転がして反転させると、その背中に覆い被さる。ひゃあ、と驚いた声があがるのにも構わず、同じく反転し上向いた彼女のお尻に被さり、ぐしょぐしょになった下着を指で押し下げた。
 そのまま前をくつろげ、俺の腹にくっつきそうなほど立ち上がった欲望を双弓の割れ目に差し入れてやる。先程の手戯で濡れそぼったそこをかいくぐり、解し尽くされた孔に亀頭を押しつける。

「やっ、に、新名くんお尻になんか熱いのが…!」
「だって、これが欲しかったんでしょ?」

 にゅぷ、と腰を引き上げられる感触の後、ずちずち、とたぎる溶鉄のようなそれが彼女の体の中心に突き刺さった。たまらず尻を浮かすも、新名も同じく追い回すように突き立ててくる。

「あっあっ、やっ、熱、やだっやっ!」
「すっげー、アンタのナカ、超気持ちいい」

 逃げまどう桃のような丸みに、鍛え上げられた腰が絶え間なくぶつかり、ぶちゅんと音を立てる。荒い息継ぎに合わせて体が揺すられ、更にベッドに押しつけられた胸にまで手が伸びる。
 よつんばいの姿勢にされ、後ろから突かれるたびに揺れる乳房を、荒々しい手が掴んでは揉みしだいていく。時折気まぐれにピンと張った先端を強く引っ張るかと思えば、二つを寄せ合わせて谷間を楽しんだりする。

「やん、も、許して…!」

 頭を下ろし、髪の合間から見える首筋に口付ける。そのままラストスパートと言わんばかりに彼女の腰に手を添え、ゆっすりと混ぜくるように抜き差しを始めた。

「ゴメン、ちょっともう、ヤバいかも」

 ぬちぬちと音を立てて二人の性器が絡み合う。その粘質を味わわんと、腰のストロークが徐々に激しさを増し、彼女のあげる声も次第に短く悲鳴のように変わる。
 たまらず腰を掴み直し、深く侵入した一瞬、彼女の一番良い箇所を存分に擦りあげてしまい、即座に側壁が肉棒を縛り上げた。一拍おいてぶし、と音が漏れ、二人の結合部はどちらのとも分からぬほどの淫液でふやけ、力つきた。






「あーもう、ちょっと―……おーい」

 ようやく意識が戻ったところで、新名はどうしようもない状態に置かれていた。

(何でこれで寝てんのかね―)

 目が覚めてすぐ、隣にいる彼女の腕の中にいるのが分かった。無意識なのか、必死に起きあがろうとするも、強く抱きしめられており離れられない。

「ねーちょっと―……はあ、……ヤダヤダ」

 声をかけても一向に起きる気配のない彼女を見つめ、仕方なくその腕の中に戻る。柔らかい胸に引き寄せられ、男としては至福なのだろうが――

(やっぱり年下扱いされてる気がするにゃー…)

 何だかなあと自身にもよく分からない葛藤を抱えた新名をよそに、一つ年上の小さな大人は幸せそうに眠りを享受していた。



(了) 2010.08.24

書きながら、昔トリビアの沼であった美人なお姉さんがあらゆるシチュエーションで「……うそつき」という映像を思い出しました

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