>> 絶対君主は密かに告げる



 その心を得るためなら僕は悪魔にでもなろう。



「じゃあ服を脱いで横になって」

 あるホテルの一室で、いつものように始まる「調教」の時間。付き合い始めてすぐの時は恥ずかしがってなかなか言うことを聞かなかったけれど、あの快感を教え込んだ今、彼女は言われるままにブラウスの前を外し始めた。
 白いそれが床にぱさりと落ち、次いでピンクのフレアスカートが彼女の足元に円を描く。上下揃いの薄緑色の下着を押さえながら、ゆっくりと部屋の中央にある天蓋付きのベッドに彼女は身を預けた。そこは俗にシティホテルとも呼ばれる場所。豪奢なベッドもその行為を盛り上げる為の飾りにすぎない。

「こら、汚れるから全部脱ぐように言っただろう?」

 猫のように丸くなる彼女の傍らに腰掛け、微笑みながら背中側のホックを外す。ぱら、と肩の紐が落ち、ふくよかな曲線と赤く膨れた乳首が浮いたカップの下でちらついた。
 それを見て一旦眼鏡の位置を正す。そしてポケットから小さな袋状の何かを取り出した。

「何をされるか、もう分かってるよね?」
「……は、い」

 それは例えば、大学で他の男子学生と話していたのを見られた時やサークルの先輩達と遊んだ時。彼女自身何ということもない会話をしていただけなのだが、それがたびたび紺野の逆鱗に触れたらしい。

「君は本当に、男を誘うのが上手いよね」
「……ち、が…!」

 紺野曰く、彼女は複数の男を魅了する力があるらしい。
 いつもの穏やかな微笑を崩さぬまま、袋を破りその手のひらに透明なジェル状のそれを広げる。そして背中を丸めた彼女の後ろから、躊躇うことなくショーツの中に手を差し入れた。

「……んっ!」
「悪い子にはまた『教えて』あげないといけないな」

 股の間に手を伸ばし、陰唇を覆うように手のひらで包む。そのまま割れ目に塗り込むように先ほどの透明なジェルをくちくちと塗り付けていくと、陰毛と絡まるようにしながら馴染んでいくのが分かった。
 続けて割れ目に指を差し込み、中にも十分に塗りたくってやる。次第に彼女自身から漏れだした愛液と混ざりあい、淫靡な音を立て始めた頃合いで、上の方にある肉芽を摘んだ。

「あ、そこ、や、…!」
「そうやって他の男も誘うのかな」

 ぷくりと膨らんだそこを強く擦り上げ、再び膣口へと指を滑らす。そうして緩やかに刺激を与えていくうち、彼女の体に明らかな変化が現れ始めた。
 白い頬は赤く染まり、黒目がちな目は涙で艶々と潤む。更に吐く息が不規則になり、時折足をすり合わせるようにして、声を漏らした。どうやら「効いて」きたらしい。

「どうかした? なんだか苦しそうだけど」
「や、体が熱くて、奥が…!」
「奥?」

 突き刺していた中指でぐり、と内壁をえぐり、体が跳ねるのにも構わず更に二本指を追加する。人差し指と薬指を曲げ、熱い膣の中を蹂躙する。
 ぐぢゅん、ぐぢゅ、と水音が立つたび陰部がどろどろと汚れていき、たまらず中でばらばらと指を開いてやる。紺野の細く長い指が敏感になったそこを刺激し、嫌でも彼の手がそこにあることを認識させられてしまう。

「あっ、あっ、やあっ、もうやあっ!」

 乱暴に動き回る紺野を止めようと、必死にその腕にすがる。だが彼女の細い腕では誘い込むように絡まるだけにしかならず、絶対君主は嬉しそうに目を細めた。ほぼ全裸に近い状態で乱れる彼女に対し、自身は服を着たまま。子供のようにされるがまま、泣きじゃくる愛しい人。その異常な光景に、ぞくりと紺野の背が泡立つ。
 絡めとられるまま二本指を残し、わずかに曲げる。そして奥を責め立てるようにずちゅ、ずちゅ、と腕を押し込むように抉ってやると、あっと小さな悲鳴があがり、手のひらに暖かい液体が飛び散った。

「あれ、もうイったのかな」

 はふ、と力なく横たわった彼女を見、きゅうきゅうと締め付けるそこから指を抜く。強い粘り気のある糸が垂れ下がり、普段以上の感度になっていることを確認した。

「だらしないなあ……いいよ、これからもっと頑張ってもらわないといけないから」


 その言葉に彼女はえ、と顔を向けた。彼が少し嫉妬している時、この手の薬を使うのは身を持って知っていた。だが、大概この段階で紺野の怒りは収まり、後は薬の効能が切れるまでいつものように愛してくれるのが普通だ。
 その時ホテルのドアが開き、彼女が持った疑問はすぐにその答えを得た。そこにいたのは――



「やあ、ずいぶん遅かったな」
「……悪かったな、この辺りは似たのが多くて分かりにくいんだよ」
「……したら、先輩…?」


 彼女の初恋であり、失恋でもある、設楽聖司その人が、不機嫌そうな様子でそこにいたのだ。
 慌ててシーツで身をくるみ、恥ずかしげに視線を落とす。そんな彼女の様子を無言で見つめながら、紺野は穏やかに設楽を誘った。

「……まさか、本当に来るとは思わなかったな」
「お前から誘っておいて何だそれは」
「……いいや、約束だからね」

 どうぞ、とベッドから体を起こす直前、身を屈め彼女の耳元で言葉を落とす。
 それは設楽には聞こえない、彼女を絶望に落とす絶対の呪い。

「――これも、『おしおき』だよ。頑張らないと、君がどういやらしいのか、設楽に全部喋ってしまうかもな」
「い、や…! それは、や、で……」
「そうだね、設楽に――軽蔑されるかもしれないな」

 その微笑みの最後に落ちた言葉に、彼女はぞくりと固まった。紺野に教え込まれ、辱められ、これ以上何に屈服することもないと思っていたが、設楽に軽蔑されるのは――嫌だ。自分がどう変わってしまったか、知られたくない。

 彼女の顔が陰ったのを無言で受け止め、その場を離れて設楽に声をかける。
 あの初めて三人で事に及んだ日、一つの挑戦状を叩きつけた。それに設楽は乗ったのだ。


「ほら、設楽」
「……お前、本当にこんなことでいいのか?」
「言っただろ、僕は彼女の全てが欲しいんだ」

 完璧なまでに自分を教え込んだ彼女。その心に他の男の事など一ミリも残さず調教したと思っていた。だが唯一、設楽の存在だけがどうやっても彼女の中から消せなかったのだ。
 それならばいっそ戦った方がいい。設楽に抱かれ、彼女の調教が解ければ設楽の勝ち。逆に設楽の存在が彼女から消えれば僕の勝ちだ。
 分が悪いと思われるかもしれない。だが、一つ計算違いの材料に彼女自身が「自分は既に汚れている」と思いこんでいるところがある。
 彼女は優しいから、そんな良心と誠実の呵責の中で自ら設楽の事を消すかもしれない。

 そんな紺野の思惑をよそに、設楽はシーツにくるまり顔を隠す彼女のそばに座り込むと、静かに上着を脱いだ。中に着ていたインナーも脱ぎ、裸になった上体で彼女を掛布ごと抱きしめる。

「おい、そんなに怖がるな」
「……は、い」

 紺野の言葉が蘇るのと同時に、媚薬に浮かされた体が設楽が触れるのに反応し、びくりと体を揺らす。そんな彼女を見、設楽は出来る限り優しく口付けた。
 肩に引っかかっていただけの紐を下ろし、下着に手をかける。指先が触れた瞬間、じゅん、と水分が収束したことに驚きながら、クロッチ部分に指をかけずるりと引き抜く。そこは既に充分過ぎるほど荒らされ、飛び散った愛液の中央で男を誘い込むように彼女の口がだらしなく開いていた。

(紺野のやつ……一体こいつをどうしたいんだ!)

 このまま進めるにはあまりに辛い、と視線を落とす。すると彼女の方から誘い込むように設楽のベルトに手をかけた。

「先輩……私なら、大丈夫ですから」

 妖しく微笑む彼女の顔に、紺野の調教とやらの恐ろしさを実感する。見る間に設楽の肉棒は外に暴かれ、支え持つように彼女の中央に引き寄せられた。
 あわせて体が前に傾ぎ、足を大きく開いた彼女の間に挟まるようにのしかかる形になる。そのまま、ぷちゅ、と音がしたかと思うと先端がそのいやらしい下の口に食いつかれていた。

「設楽先輩……私、頑張ります、から、…あ!」

 にゅぷにゅぷと沈み込んでいく間、以前とは違う潤滑に設楽はようやく媚薬の存在を悟る。だが既にその効果に酔いしれる彼女は、時折腰を揺らしながら熱く反り立つそれを飲み込んでいった。

「くっ……待て、早…!」

 制止の声を待つことなく、生きているかのように締め付ける膣のあまりの気持ちよさに、思わず白濁を漏らしてしまう。びじゅ、と細切れに射出されるそれをとりこぼさぬよう、更にきゅ、と内壁が締まった。
 荒々しく息をつく設楽。しかし彼女の欲望は収まらず、ぐじょぐじょになったそこをなおも設楽の腰に押しつけてくる。

「な、……そんなに、急ぐな!」
「だって、お腹の奥、じんじんする、あ…!」

 設楽の腰に手を回し、しがみつくように秘部を密着させる。完全に融けきった媚薬と彼女の分泌液が、彼の足の付け根を刺激し、膨らみをかすめる。
 たまらずナカに収まっていた自身の中に血液が張り巡らされ、再び剛直が狭い子宮までの道を押し広げるのを感じ、今度は反撃とばかりに彼女の腰を掴むと引き寄せるように肉棒を擦り寄せた。


「あ、や、ああああ!!」
「くっ……反応が桁違いだな」

 幾度となく抜き去り内壁を擦る。そのたび、ほんの僅かに擦れただけで彼女の体はびくりと反応し、短い息が吐き出された。
 ぬるぬるとした内部は普段より熱く、彼女の腰を抱き寄せ自身の腰に引っ張り上げてはぐっちゅんぐっちゅんと左右に激しく揺さぶりながら突き刺す。
 さすがに怖くなったのか、逃れようとする上体にのしかかり、お椀型にふるふると揺れる胸の谷間に顔を寄せ、ぺちゃ、と舌を這わせた。腰は相変わらず激しく突き上げるなか、胸の周囲からその登頂部へといやらしく舌が這いまわり、思わず設楽の頭を抱きしめる。それに気を良くしたのか、腕の下でその端正な顔が笑みを浮かべた。

「なんだ? もっとして欲しいのか?」
「や、あ、ちが…!」

 媚薬効果か胸に合わさる互いの肌の感触だけで、下腹部から背中に痺れが走る。やがて二度目の絶頂が二人を襲い、子宮の奥にじわりとした温さが満ちた。それを楽しむかのように、設楽は何度か腰を揺すり、引き抜くのにあわせて精液がこぼれ落ちた。




「……二回するなんて聞いてなかったけど」
「うるさい。不可抗力だ」

 だらりと弛緩し体を投げ出す彼女をよそに、今度は紺野が彼女に覆い被さる。名残惜しそうにしながらも設楽は離れ、それを横目で確認してはちゅ、と小さいキスを落とした。

「――ね、分かっただろ」

 下から包み込むように乳房を掴み、ゆっくり揺するように弄んでいく。すぐにぴんと張り立ったピンク色の乳首をちょんと指で押さえ、穏やかに言葉を続けた。

「君はね、いやらしい子なんだよ」

 こぷ、と設楽の残滓がこぼれ落ちるのも構わず、その入り口を二本の指をV字にして押し開いてやり、自身のペニスをくちょ、とひだに乗せる。

「君がもっとやらしいこと、設楽が知ったらどう思うかな」
「や、め……先輩、やめて……」
「……いいよ。でもそのために何がいるか、分かるよね?」

 刹那一気に押し込まれる。堪え切れない強烈な圧迫感に歯を食いしばり、全身性感帯になってしまったかのような甘い痺れに耐える。
 ぴんと延びた足の指。大きく開かれた太ももに挟まれて、獣のように乱雑にピストンを繰り返しながら、紺野は消え入りそうな声で呟いた。



「もう君は……全部僕のものだ」


 やがて紺野が絶頂を迎え欲望を吐き出すと、彼女の回復を待たず設楽がその背後から突き入れ、犯す。それが終わると再び紺野が元気になったそれを蠢かしていき、彼女が意識を失うまで二人で代わる代わるその小さな体を蹂躙した。
 人形のように横たわった彼女から堅さを失ったそれを抜き出し、紺野がぽつりとこぼす。


「なあ設楽」
「……何だ」
「彼女はどっちを選ぶんだろうな」


 疲れきった様子の設楽から返事が返らないのを察し、苦笑する。
 やるべき布陣は全て引いた、と絶対君主はその口角を上げた。


(了)

私は紺野先輩を一体なんだと思っているのだろう

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