>> 四回目の特別会話


「今日は家族がいないんだ」

 それは紺野先輩の家に呼ばれて四回目のこと。

「そ、うなんですね」
「……うん」

 教会で桜草に導かれ思いを伝え合った私たちは、同じ一流大学で忙しい毎日を送っていた。
 二年生になった先輩は相変わらずボランティアサークルやら家庭教師やらで引っ張りだこだし、私は私でこの一年でどれだけ単位が取れるかが勝負だ。それでも二人で会える時間は大学構内と休日にと以前よりずっと増えていた。
 だがそれはあくまでも人目があってのこと。


「な、なんか前にもそんな話しましたよね? ほら、私がまだ高校生で」
「あ、いやあの時は本当にどうかしてたんだよ! 君が僕の部屋にいるのが何だか不思議で……」
「DVDが大音量で見られないですしね!」

 必死に先輩のDVDコレクションを指差し、変な笑顔を浮かべてみせる。だが、その笑いごと押しつけられるような唇に奪われた。乱暴なそれが離れ、かすれた声が漏れる。

「……今日はそんな言い訳、しないから」

 あの時は「その言い訳、苦しいです」で一蹴したものの、今はもうあの時とは違う。いや、本当は三度目のあの日、私は既に望んでいたのかもしれない。






 とりあえず傍らのベッドまで抱え上げられゆっくり下ろされる。焦げ茶の掛け布団と白い枕カバーに触れると、自分のものではない汗の匂いがした。

「あ、なんか、先輩の匂いがします」
「えっ!? ちゃんと換えてたはずなんだけどごめん、嫌なら……」
「ううん、私この匂い好きです」
「……全く」

 あまり可愛いことを言わないで、と小さく聞こえたかと思うと再び弾力のあるそれが唇に触れ、今度はその歯列をなぞるように舌が侵入してきた。踏み込んでくる異物感をどうしたものかと惑い、嚥下しきれなかった唾液が口の端から漏れる。



「……ん、ふぁ」
「ごめん、苦しかった?」

 労るように先輩の指の腹が私の頬を撫でる。今までこんなのしたことなかった。私からするときも先輩がしてくれる時も強く触れ合わせるだけだったのに。

 戸惑うその様子をよそに、先輩は襟元に手を伸ばし手際よくボタンを外していく。前をくつろげると自身の胸板に私の胸を押しつけるように体を引き起こし、ホックを簡単に外してしまった。

「あ、あの」

 耳元に受ける呼気が熱く、思わず先輩の胸板に手を伸ばす。体に自信がないなんて言っていたけど嘘だ。「思っているほど貧弱じゃないよ」と笑っていた先輩の言葉が今は、



「――怖い?」

 恐る恐る顔を上げると、紺野先輩と目があった。眼鏡ごしにのぞくのはいつもと同じ優しい視線。

「あの、その、私――はじめてで」

 思わず言ってしまってから、顔が赤くなるのが分かった。どうしよう、先輩真面目な人だけど、こんなの嫌われないかな。だがぐるぐると回る思考をよそに、先輩から続いたのは意外な言葉。

「その、実は――僕もなんだ」

 へ、と改めて顔を見る。さっきまで気づかなかったけど、レンズ越しの頬がわずかに赤い。

「その、こういうの、慣れていないから、君が辛くないかだけが心配で」
「いえ、その、……紺野先輩すごく手慣れてる感じだったから、私だけ子どもみたいで…!」
「い、一応事前に勉強してその通りしてみたんだ、けど」


 勉強て。
 その時点で堪えきれなくなり吹き出してしまった。すると先輩も驚いたのか手を止め、静かに笑う。

「じゃあはじめて同士ですね」
「そうみたいだね」

 ふふ、とどちらとも知れぬ笑い声がこぼれ、するりと外れた下着から白い双丘がまろびでる。標準よりやや大きなそれは美しく上向いており、その膨らみをほぐすかのように指が添えられた。

「ん……あ、なんか変な感じです」
「すごい…こんなに柔らかいものなんだ…」

 興味深い玩具を見つけた子どものように、たおやかなそれをすくい上げ、ふにふにと弄んではまた寄せる。ゆっくりと体重がかけられ、そのうちぷくりと膨らんだ乳首に手とは明らかに違う感触が這った。
 赤ん坊のようにくち、くちと吸い上げ咥内でその形を露わにさせられる。かと思えば舌先で強く押し込まれ、再び強く吸われる。もう一方の突起も休むことを許されず、強く鷲づかんだあと急に力を弱め、摘むようにこりこりと刺激を与えられた。
 一心不乱に胸を愛撫する紺野先輩の姿に、普段と違う幼さを感じながら、その谷間に顔を寄せる彼の耳元でそっとつぶやく。

「あ、の…先輩……眼鏡、が……ん」
「…! ごっごめん気づかなくて!」

 慌てて眼鏡を取り外し、脇のサイドボードに置く。先輩の肩越しに天井を見上げると部屋の電気は暗いままで、カーテンの隙間からわずかに光が漏れている。それを受けて先程の眼鏡が奇妙な影を落としていた。





「じゃあ、ごめん、そろそろ」

 とろけてしまいそうな愛撫を終え、申し訳なさそうに先輩の手が剥き出しの腹を、太ももを伝い、ざわりとした茂みにたどり着く。二三逡巡していたが、場所を確かめるようにして人差し指の先が埋め込まれた。

「や、」
「……痛い?」

 くち、くち、と第一関節まで埋め込まれる。痛みはさほどないが、強烈な異物感と好きな人から触られている羞恥心ばかりが露わになってしまう。

「もう少しいくよ」
「あ、や…!」

 宣言通り更に深くぐりぐりと詰め込まれる。普段使うことのない触覚の部位が、先輩の節くれた長い指の存在を感知する。どうしよう、先輩の指すごく長くて、やらしい。
 親指と中指とで押し開くようにする最中、上の方にある突起を擦られ思わず変な声がでる。

「ここ、良かった?」

 文化祭の時も水族館でずぶ濡れになった時も思ったけど、先輩は眼鏡外すと全力で意地悪な顔になる気がする。気のせいか性格まで強引になっているかのようだ。
 気づけば指は二本に増やされ、その先を角度を変ええぐるように探っていたかと思うと、やがてずるりと引き抜かれた。あ、と思い体を起こす間もなくカチャカチャという金属の音と、紺野先輩の掠れたため息が聞こえる。

「手、貸して」

 わずかに体を起こし言われるままに手を伸ばすと、くいと引き寄せられその指先が何か熱いものに触れた。脈打つようなそれは体温より熱く感じられ、そのままぬり、と上に移動させられる。反りたつそれが何かくらい、私にでも分かった。

「今からこれが君の中に入る。多分さっきまでとは比較にならないくらい痛い……だから」

 きっとここで、やめて、と一言言えば先輩は止めてくれるんだろう。でも。

「……せんぱい、 ほしい」
「…… 分かった」

 太ももの付け根に手が添えられ、有り得ない角度まで押し開かれる。ぐ、と体重全体がかかり、狭い秘裂に高い熱量をもつ物体がのしかかってきた。
 
「あ、ヒィ、や、……ァ」

 侵入なんてものじゃない。まるで食べられているかのようだ。裂けるような痛みと堅固な質量を携え、紺野先輩の肉棒が私を貫く。深く、深く、中程で一旦止まり呼吸を確認すると、再び捕食を開始する。誰からも攻め入られたことのない要塞を攻め落とすかのようなある種の支配欲が、先輩の腰を一層激しくさせた。
 二三左右に律動し、完全に中に収まったのを確信する。正直常に締め付けられるそのひだの感触と、通常ではけして触れ合わない陰毛同士のざりざりとした感覚だけで達しそうになるのを堪え、辛そうな彼女を見下ろした。

「……入ったよ」
「ん、あ、」
「ごめん、動くよ」

 答えが無いままゆっくり引き抜き、再びずぶりと突き刺す。それを何度か繰り返すうち、ぐちぐちと淫靡な音が響き始めた。ぬらぬらと肉棒にまとわりつくそれはいやらしく、潤滑油の役目を果たしながらもぴちゅ、くち、と下の口から漏れ出す。
 最初の口づけと同様に指の腹ですくい、今度はひだのふちにすり付けてやる。組敷かれた彼女を見ると顔を真っ赤にして痛みに耐えていた。


(ああ、可愛い。)
「……ごめん、限界みたいだ」
 
 あまりに居心地の良い膣の中で、それは膨張しきっていた。先程より律動を早め、腰を大きく降り下ろす。優しくしようと思っていたのに、ああ、もうどうでもいい、乱暴に腰を掴み揺さぶり、打ちつけてはぐりぐりと奥へ奥へと抉らせる。

「先輩、私、あっ……!」
「な、うわっ…!」


 途端、膣がきゅうっと強く締まった。その搾り取られそうな快感に案の定、白濁した液体がびょる、と音を立てて彼女の体内に注がれた。いままで出したことのない粘質と濃度のそれが子宮を満たし、なおもむさぼるように彼の肉棒を締め付けていた。








「大丈夫?」

 ぐしょぐしょになった太ももをティッシュで拭ってもらいながら、ようやく普段の様子に戻った紺野先輩を見やる。

「あの、これ…」

 普通は避妊とかするもんなんじゃないだろうか。もしくは直前で抜くとか。

「ああ、どうせそろそろだと思ったしね」
「そろそろ…?」
「君の両親に会いに行く時期だよ」

 その意味をようやく理解したとき、再び顔が真っ赤に染まった。

「僕は我慢強くないから。欲しいものは先にもらいに行くよ」
「……バカ!」
「えっ!?」

 考えていたことのその先の答えまで勝手に出してしまうなんて、と膨れる彼女の怒りなど知る由もなく、困惑を浮かべたまま愛しい未来の婚約者にとりあえずいつもの優しい口づけを落とした。


(了)

2010.7.8

コンタマ先輩は眼鏡外すと超ドS顔ですよね

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