>> 頭上注意



「んじゃ、そろそろ帰るか」

 遊園地でナイトパレードを堪能したあと、いつものように家路につく。
 あの駆け回るかのような高校生時代から一年がたった。彼女は大学一年生として、琥一は家の仕事を勉強し始めてお互い四苦八苦している中、ようやく遊びに出る時間が持てるようになったのだ。

「パレード本当に綺麗だったね」
「ああ……クッ」
「どうしたの?」
「いや、お前、隣にいたガキとおんなじ顔して見てやがったな、と」
「――!」

 ハンドルを握る腕に横からぽすんと攻撃される。効かねえな、と呟くと反撃とばかりに彼女の頭をわしわしと片手で撫でる。

「も、もう!」
「どうした? 牛か」
「ガ、ガキじゃないから!」

 視線は路面に向けたまま、愛車のハンドルを静かに切っていく。
 高校生になった彼のもとに彼女が現れてから、琥一の周辺は驚くほど変わった。中学までの血気盛んな挑戦者は数を減らし、彼を兄貴と慕う友人も出来た。何より弟の琉夏が家を出た日のことは、今でも忘れられない。

(――あいつを、幸せにしてやってね)

 弟だと思っていた琉夏はいつしか俺と同じ男になっていて、そして妹だと思っていた彼女は「俺の女」になった。



「ガキじゃねえってんなら一体何なんだ?」
「お、大人です!」

 耐えきれずに思わず吹き出す。そんな琥一に気づき、彼女は顔を真っ赤にして彼の膝に手を伸ばして揺すった。
 このまま膨らしておくのもやっかいだ、と海岸を走らせていた車を人気のない空き地へ止める。


「大人だァ?」
「そ、そうです」
「クッ……じゃあ、こんなのも平気かよ」

 牽制のつもりで助手席に座る彼女の方へ体を寄せ、顎を掴むと噛みつくように口を合わせた。薄く目を開けると、突然の事に目を見開いている彼女の顔が見える。
 バカかお前は。まだ腕なんて震えてるじゃねえか。何が大人だ。

「……っ、は…」
「……ほらよ、これで満足か?」

 酸素不足の体で懸命に息をしながら、琥一を見上げる。唇は互いの唾液でてらてらと艶を帯び、扇状的だ。その姿に疼きを覚えながらも、理性を総動員して体を離そうとする。
 だが、今度は彼女が琥一の両腕を掴み、ぐいと顔を持ち上げた。きゅっと目を瞑り、たどたどしくぶつかるように唇が合わさる。

「……ん」
「お前、何、を」

 苦しむように唇を離して見上げてきた彼女に思わず問いかける。その言葉に、赤い舌をちらちらとのぞかせながらゆっくりと笑ってみせる。

「言ったよ? 子どもじゃないって」

 ぎし、と軋んだ音を立てたのは車のシートだったのか。それとも俺の最後の理性だったのか。
 
「……上等だ、コラ」

 そうだった。
 こいつが俺の女になったと同時に、俺もただの兄貴役から「こいつの男」になっていたのだ。






 車の座席を倒し、腰を浮かせると車内に用意していたバスタオルを敷く。狭い車内を、息を潜めるように琥一が助手席へと移動した。

「あ―…痛かったら言え。……無理はさせたくねえ」
「う、…ん」

 体を更に彼女の方にずらし、その太股に手をかける。びくんと分かりやすく震えが走るが、構わず親指の腹に力を加え奥へと滑らす。

「ひゃ、…!」

 思わず琥一の腕を掴むが抑止力になる訳もなく。片方の腿を軽く持ち上げると、手の腹で下着の中心をぐいと刺激する。先程のキスで感じていたのか、湿り気を帯びた感触に琥一は短く笑った。

「オイ、なんだこれ」
「だ、だってコウくんの触り方がやらし…」
「うるせェ」

 頭上に影が落ちたかと思うと、再び琥一の顔が降りてきた。くちゅ、と舌をむさぼるような口付けをしながら、執拗に陰裂を指で探る。
 下着をずらし、中指の腹を添わせるように中にうずめる。思わず逃げようとするが、腰をもう一方の腕と琥一自身の体重で押さえつけられ、身動きがとれない。ましてや車内、人気のない所だが、誰に見られるかわからない。

「やあ、ん、コウくん…!」
「いいから黙っとけ。誰か来ても知らねえぞ」

 膣を突き進む中指が、時折折りまげ掻き出すような仕草で陰核をこする。琥一の長く節くれた指を思い出し、たまらず腰を浮かす。
 すると、ぴゅ、と音を立てて粘性のある液体が彼の手に落ちた。

「なんだァ? 吹くのが早いな」
「な、何、ひゃ、ひゃぁん!」

 口角を上げ、薬指も侵入させる。既に十分潤ったそこはじゅくりと二本の指を包み込んだ。そのなめまかしさ。思わずごくりとのどが鳴る。
 胸への愛撫が済まぬまま、たまらず自身のベルトを外し、ジジ、とファスナーを下ろす。そこには熱く勃立した陰茎がボクサーパンツの下から存在を主張しており、下着を押し下げるとぶるりと亀頭をのぞかせた。

「ワリィな、……もう限界だ」

 入れていた指を抜き、ショーツの股の部分にひっかけたままずるりと引っ張り下ろす。多量の水分を含んだそれは膝の辺りで複雑に丸まった。
 代わりに太股の内側を堅くしなやかな感触が走り上がった。ぐちぐちという奇妙な水音と、熱くそれでいて脈打つそれが何かを察し、思わず足を閉じるが

「おせえよ」

 先端がきつく閉じられた腿の合間を滑り、一層大きく膨れ上がる。そしてそのまま外側のひだを押し開き強引に貫通した。

「ひ、や、…!」

 泣き声を必死に堪える彼女にのしかかり、革のシートをひっかいていた手を取り自身の背中に回させる。

「……ひっかくなら、こっちにしろ」

 先端を少し埋め込んだ状態で彼女の様子を伺う。ようやく呼吸が落ち着いてきたのを確認すると、腰に手を添え再び侵入を開始する。

「あ、ひゃう、……」

 みし、みし、と琥一の愛車が音を立て、それに合わせて彼の体も上下する。ミラーに映る浅黒い肌が、彼女の白い足や腕に絡まり、堪らない背徳感を生み出した。
 幾重にも広がるひだが琥一の肉棒を拒絶しつつも食いついてくるのに、知らず腰が速まる。

「あっ、あ、や、ひゃん、ひゃあああ!」
「クッ……よがってんじゃねえよ」

 背に走る彼女の指の強さに興奮し、揺さぶるように奥に詰め込んでやる。やがて全部収まると、深く息を吐き、刹那ぐり、と腰を回した。

「んやあ!」

 痛みと刺激に驚いたのか、背に回していた腕がぎゅうと引き寄せられ知らず琥一の頭を抱き寄せる形になってしまう。髪に触れる彼女の指が存外心地よく、それに気をよくしたのか琥一の動きは止まらない。
 子宮の奥に突き立てたそれを入り口ギリギリまで引き抜き、乱暴に差し入れる。張りがあり、絶妙な硬さと熱量を孕んだペニスが彼女の未熟な内部を蹂躙し、獣のように喰い尽くしていく。

「あ、や、なんか、や……!」

 彼女がせり上がる限界に恐怖し顔を背けると、その首筋に狙いを付けて鬱血痕を残す。しゃくりあげる声に合わせて、腰を大きくグラインドさせた。膣内がぐちゅ、ちゅと水音を立て、締め付けるのに負けじと激しく内壁を擦り上げる。
 ぎしぎしと音を立てる革のシートと自分を覆い隠す琥一の逞しい体に挟まれ、彼女の頭は真っ白になる。そして――

「……クッ」

 強い締め付けの後、性器にじわ、と滲みいる感触。ぶるりと腰を震わせ花芽から抜き出すと、花を散らしたそこは赤く充血し、広げられた足の指はぴく、と痙攣していた。下に敷かれたバスタオルが色鮮やかに変色しているのを見、絶頂を迎えたのを悟る。

(――チッ、無茶させたか)

 誘われたとはいえ、もっと大事に扱いたかったのだが、行為に至るとどうも歯止めが利かない。まあ――相手がこいつだというのが一番の理由なんだが。
 未だ熱を持ったままの自身をどう処理するかと悩みつつ、とりあえず体を起こす。するとゴンと音を立てて車体が揺れた。

「――ッ」
「こ、コウくん…?」

 打ちつけた頭を押さえていると、ようやく意識が戻ったのか彼女が琥一を見上げていた。慌てて運転席の方へ移動するが、何もかもそのままであられもない状態だ。
 その琥一を見て、今度は何故か彼女がこちらへ移動してきた。服は乱れ、目は潤んでひどくいやらしい。

「な、何して…!」
「だって、コウくんまだ……苦しそう」

 返事を言う間もなく、小柄な彼女が琥一の腹筋を乗り越え体を跨ぐ。先程と逆転したその体勢に、下半身に更に熱が集まる。
 そのまま腰を浮かし、こりこりとした硬さで立ち上がっている琥一自身の先に、割れ目の溝をすり付ける。愛液と先走りが混ざりくちゅんと音を立てたのを聞き、ゆっくりとペニスが彼女に挟み込まれていった。

「バッ、……カ、お前、何やってんだ…!」
「だって、コウくんにも、気持ちよくなって欲しいか、ら」

 ん、ん、と声を上げながらじゅぷじゅぷと彼女の中に飲み込まれていく接合部を目にし、たまらず息が漏れる。やがて全てをくわえ込むと、そっと琥一の体へその手を下ろした。

「ん、…!」
「……テメエ、覚えてろよ」

 途端に琥一があの悪い笑顔を浮かべ、下からむんずと彼女の胸を掴んだ。あまり触れられていなかったそこの刺激に体を反らすが、結合した下腹部が逃れることを許さない。

「や、だめ…!」
「アアン? お前から来たんだろ」

 一方を薄い背中に回し、もう一方で服をまくり胸を覆う下着を引き下ろす。たまらず溢れ出た白い膨らみに、琥一の黒く長い指が絡みついた。
 重力に従い下を向く突起を指の間に挟み、ゆさゆさと揺する。片方に施すともう片方にも同じ様に。やがてその背に回されていた腕に強い力が伝い、彼女が腕で支える甲斐なく彼の胸板の上に倒れ込んでしまう。

「情けねえな、もっと楽しませろよ」

 腰から肩、腰から尻へと斜めに琥一の腕が回され、胸板に引き寄せられるように抱き締められる。必死に起き上がろうと抵抗するが、足も絡み付かれそれすらままならない。

「オイ、そんなに暴れたらコイツが壊れるだろ」

 クッ、といつもの笑いを浮かべ、彼女を突き上げるように揺する。ついさっき絶頂を迎えた体には車の振動すら刺激になるらしく、過敏に反応が返ってきた。
 
「あ、ひゃ、ん、やあああん!」
「……出すぞ」

 ラストスパートをかけるように彼女の体を掻き抱き、乱暴に膣を突き破る。同時に上体もすり合わせ、琥一の胸の上でずしりと重力のある双丘が面白いほど形を変えた。
 尻にのばされていた腕はその指先を谷間に伸ばし、強く引き上げる。ぬちゅんと粘液が指を伝い、食いつかれていた膣が一層締まるのを感じたその瞬間、ぶじゅると音を立てて子宮と二人の体の狭間、そして運転席のシートに白い液体がこぼれ落ちた。
 同じく二度目の絶頂を迎えた彼女が倒れ込み、やがて静かな寝息を立て始めたのを見、琥一は荒い息を整えながらその小さく愛しい体を優しく抱きしめ直した。






「ご、ごめんねコウくん……」
「……いや、お前のせいじゃねえ」

 行為の後、ガードし損ねた運転席の汚れを拭き終え、琥一は何事もなかったかのように車を走らせていた。
 まさか彼女がこんなに積極的に来ると思っていなかったのに加え、いつもと違う場所というのが理性を狂わせたらしい。

 ようやくたどり着いた家の前で車を止めると、彼女が降りようと扉を開けた。
 送ってくれてありがとう、と微笑み、琥一が視線だけで答えようとしたその瞬間、彼の隙をつき頬に軽くキスをした。

「なっ……お前…!」
「――ガキじゃなかったでしょ?」

 ハア!? と真っ赤になって聞き返す間もなく、扉は閉められてしまう。見ればのんきに向こう側で手を振っている有様だ。

「……クソッ」

 あの暖かさがなくなって、少しだけ――寂しいと感じるなんて。




(これじゃまるで俺の方がガキみたいじゃねえか……)

 クラッチを踏み込みアクセルと入れ替えていく。その振動を楽しみながら、琥一は深いため息をついた。




(了)2010.08.09

外車左ハンドルわかんねーよ! と思いましたが書いてみたら特に右も左も問題ありませんでした

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