>> 絶対君主は愚かに笑う



「なあ、設楽。お願いがあるんだけど」


 それはお互い大学二年に昇級した夏のこと。今度の夏休みに三人で行く旅行のことで相談があると、久々に設楽の家に来た紺野が、突然そんなことを言い出したのだ。

「……何だ? また青春18切符で全国一周にしたいとかなら俺はおりるからな」
「そうじゃないよ。――彼女のこと」


 ああ、また俺にあの気持ちを思い出させるのか。

 高校生の頃、二人はひとつの恋をした。それも同じ、一人の女の子にというからたちが悪い。
 無邪気なのに時々子悪魔のようで、自分達の一番知られたくないどす黒い部分に踏み込んできた女の子。いつまでも三人でいられたら、と思ったこともあった。だが、その願いはあっさりと砕かれたのだ。

 彼女が紺野を好きだと知ったあの時から。



「相変わらず仲が良くて結構だな」
「はは、照れるな。……まあ、そうなんだけど」

 その締まりない笑顔にチェス盤をぶつけてやろうかと思ったが、何とか踏みとどまる。
 彼女が紺野に好意を抱いていると知った日、設楽は自ら身を引いた。強い言葉を彼女に浴びせ、自分の気持ちを隠した。そうすれば、何の迷いもなく彼女は幸せになれると思ったから。
 事実、彼女が卒業してから紺野と付き合い始めたのを聞いた。当然の結果だ。この俺に身を引かせておきながら、誰とも知れぬ男に取られてたまるか。

「ほんと、僕にはもったいないくらいだよ……魅力的だし、相変わらず危なっかしいけど」
「そうか」
「あと意外と……従順だよ」


 聞き慣れない単語にわずかに眉を寄せる。
 この一年でこの友人と彼女の取り巻く色香が変わったことは自覚にあった。まあ恐らく、そういう行為もあるのだろうし、正直それに気づきたくなくて知らぬ振りをしていた。
 あの華奢な体が今目の前にいる男の下に組み敷かれ、真っ赤になって喘ぐその姿。小さな泣き声。それは想像だけで設楽の背を泡立たせる。


「一度覚えたらすぐ欲しがるから大変で。でも随分上手くなったよ」

 何かがおかしい。紺野は、何をお願いしようとしているんだ?
 疑問を浮かべる間もなく、三人目の来訪者が設楽の部屋の扉を叩いた。一緒に旅行をしようと誘った――彼女が、高校生の時に比べ少しだけのびた髪を揺らしながら、こちらを伺っていた。




「設楽先輩すみません、遅くなっちゃって」
「あ、ああ」

 今の話を聞かれてはいなかっただろうか。紺野から言い出したこととはいえ、自身のいないところで話をされるのは気分のいいものではない。
 しかしそんな設楽の様子を気にするでもなく、彼女は紺野の傍に歩み寄ると同じように頭を下げた。

「すみません紺野先輩」
「……うん、遅いね。遅い子には――お仕置きだ」

 そういうと紺野は彼女を手招きするとソファに座る自身の右に座らせ、その太ももを跨ぐように指示する。そして

「ほら、キスして」

 最初は言葉を疑った。あの温厚な紺野が彼女に命令をした、ようにみえた。
 
「紺野お前何を――」

 しかし次の瞬間、彼女は紺野の胸に手を伸ばし、すがりつくように口づけをしたのだ。初めはついばむように、やがて舌を絡ませはふ、と短い吐息を漏らす。なめまかしく体が動き、彼女の太ももに挟まれた紺野の足が時折ぐいと持ち上げられたのが分かった。
 信じられなかった。あの無垢で汚れなんて知るはずもない彼女はそこには無く、ひどく冷酷な顔をした紺野が微笑みながらこちらを見、言葉を続ける。


「彼女が、――あんまり可愛かったから」

 そののびた髪を軽く引っ張り、更に口づけを要求する。
 彼女のグロスが紺野の唇に付き、異常な色気を生み出す。そのまま再び設楽の方に視線を向け、コンタクトにした鋭い目が眇められた。

「もっと、可愛くて、やらしい彼女が見たくなってさ」

 絶対君主。その言葉が設楽の頭をよぎる。
 彼女は変わった。恐らくはあの主の力で。それを悲しむべきか、諦観すべきかは分からない。ただ、自身の体だけは本能に忠実にその匂い立つ気配に反応した。

「だから設楽、良かったら三人で遊ばないか」

 高校時代何度も繰り返された誘い文句。今はそれが、とても恐ろしく聞こえた。






 ベッドの上に追いつめられ、彼女がベルトの金具を外す光景を設楽はただ黙ってみていた。当の紺野は少し離れた椅子に悠然と腰掛け、穏やかに英文学の原書なんて読んでいる。

「っ……お前、こんなこと…」

 ファスナーがジジ、と短い音を立て、下着を引き下ろすと同時に性器が露わになる。一瞬びくりと体を震わせたが、ゆっくりとその白い手の中に包み込んだ。ぞわり、と背に風が走る。大切にしたいと思っていた少女が、その手に自身の欲望を戴いているのだ。そのアンバランス感。
 指を絡めるように竿を撫で、裏筋をつ、と指で辿る。じゅんと先端から液体がにじむのも構わず、ゆっくり手首を返しながら上下させ、その下にある膨らみに唇を寄せた。

「だから……やめ…っ…!」
「設楽せんぱい…」

 更に肉厚な唇が移動し、血液を孕んで大きく膨張した先端の窪みにもキスを落とす。そしてそのこぼれ落ちた髪を耳にかけ、ちゅぶ、と肉棒をゆっくり咥内に含んだ。
 たどたどしく舐め上げ吸うその動作はまだ不器用だったが、施しているのが他でもない彼女であるということが何よりも設楽を興奮させた。
 やがて下半身に集まる熱が高まり、限界が近いことを悟る。その小さな口いっぱいに汚い欲望を含む彼女の姿がたまらなくいやらしく、思わずその後頭部に手を当て強く腰を動かした。

「ん……ぐ、」
「……っ、は」

 彼女はえずきそうになるのを必死に堪え、更に設楽自身に刺激を与える。その刺激に耐えきれなくなったのか、口から抜く前に白濁がこぼれてしまった。
 慌てて吐き出させようとするが、傍観していた紺野がようやく声を発する。

「だめだよ。いつもみたいに全部飲んで」
「は、い…」

 いつも。
 その単語に思わず息を飲んだ。
 紺野の命に従い、彼女はそのまま燕下する。その熱っぽい目を向け、自身の服をするすると剥がしていった。これも紺野の調教の成果なのか。


「ほら設楽」
「――?」
「早く、彼女を悦ばせてあげてくれよ」


 狂ってる、と思った。紺野もこいつも、何より俺が。



 その要求通り、一度抜いたはずのそれはいつの間にか硬くそそり立ち、怯えた様子で俺の眼前に現れたそいつを捉えると、迷いもなく組み敷いた。
 その性急さに驚いたのか、や、と少しだけ悲鳴を上げるが、設楽は聴覚を閉ざした。
 既にぬるぬると潤った秘部を押し開き、人差し指をずり、と差し込む。びくんと振れる大腿を押さえつけ、そのまま滑り込むように挿入した。
 
「……くっ」

 一瞬で持って行かれそうになる意識を懸命につなぎ止める。一旦奥まで入りきると、しばらく留まり彼女の様子を伺った。
 夢にまで見た彼女の、泣きそうな顔。薄く開いた唇の間から、ちらと舌が蠢き、設楽を誘う。何よりこのペニスにまとわりついて離れまいとする膣に、もはや感動に近い何かを覚えた。
 たまらず律動を開始する。ぐちゅ、と押し入るたび根本から吸い上げられるように締まり、引き出すと名残惜しそうにきゅんと筋肉が痙攣する。腰を打ち付けるごとにその下にある膨らみが、彼女の股の更に奥にぶつかりぱん、と音を立てた。

「や、設楽せんぱいやああ」
「……ッ」

 泣きながら終わりを懇願する姿に知らず腰が速まる。やがて強い解放感を残し、彼女の膣内と腹と太ももにと白い痕跡を残した。
 ぜいぜいと息を吐く二人。だが、そんな様子を労るでもなく、紺野がようやく本を閉じ立ち上がった。




「どう? 設楽のは良かった?」
「……紺野せんぱ、い」
「本当に君はいやらしいね。……他の男に犯されても感じるんだろ?」

 ぎし、とベッドがわずかに傾く。その様子を察し、設楽がどくと紺野は「悪いな」と呟き、彼女の腕を取った。

「でも、なかなか良かった。だから、ご褒美をあげようか」

 見れば先程の二人の交わりを見て興奮したのか、既に紺野のズボンは高く張っていた。器用に片手で前をくつろげ、彼女を引き寄せるとくるりと体を返す。
 当然ベッドに座る紺野の足の間にすぽりと座り込む体勢になってしまった。


「こ、んのせんぱい…?」
「こっちはあまり連結したことないからね、ご褒美だ」

 そう言うと彼女の背中に口づけ、ゆっくり体を前に倒していく。そして四つん這いの姿勢にまで腕を付かせ、尻を上げさせるとその丸みに添うように己の腰をぐりゅと動かしたのが分かった。

「ひ、ひああああ!」
「やっぱりいつもより締まるね。……設楽がいるからかな」

 その苦痛に近い表情から、普段入れない箇所へ侵入されているのが分かった。だが紺野が回転を加えゆっくり腰を進めるにつれ、息づかいが甘いものに変わる。

「や、ん、せんぱい」
「ほら、逃げないで」

 真っ赤になり喘ぐ彼女に対し、紺野はまるでそれすら楽しむかのように執拗に腰を揺する。右に左に、わずかに捻るように緩急をつける。更に前へと逃げようとする彼女の太ももを掴み、自身の上体で覆い被さるようにして突き上げるように追いつめた。
 やがて彼女の体がびくりと震え、紺野の下でぐたりと支えを失った。ようやくイったのか、と設楽が考える間もなく、紺野は彼女の体を無理矢理起こした。



「設楽、まだ大丈夫だろ?」

 見れば紺野の性器は未だ熱量を孕んだまま硬く彼女に刺さっており、引き起こされた彼女の太股を掴むと左右に大きく開かせた。
 設楽の欲望に汚されてらてらと光る陰毛と、その奥で口を開く赤く熟れたそれに思わず息を飲む。

(許されない)

 これ以上進めば元の三人には戻れない、と理性は確かに囁いた。だがそれ以上に本能は彼らの体を動かす。
 導かれるまま彼女の力ない腕をとり、首の後ろに回させる。膝をつき、再び快楽を求めんと立ち上がったペニスに手を添え、泡立つ蜜壷に押し込んだ。


「やっ……せんぱい、むり、壊れちゃ……!」
「そう? その割にまたぎゅって締め付けてきたけど」

 楽しそうに紺野が腰を揺すると、反動で設楽のペニスも締め付けられる。その狭い穴前後に大きく膨れ上がった肉棒をくわえ、可憐だった少女はいつしか淫らに花を咲かせた。

「おい、俺は無視か」

 後ろから突き上げられ設楽の方に倒れ込むと、今度は押しつぶされた胸に舌で舐め上げられる感触が伝う。時折指の合間に挟むように抓られると、思わず体が跳ね後ろに体重が移動してしまう。

「設楽だめだよ、これは僕のなんだから」

 設楽の手が離れたのをこれ幸いと、指の合間からこぼれ落ちそうな乳房を下からすくい上げるように掴み、乳首を押しつぶすように右左バラバラに揉み上げる。合わせて体を浮かすように逃れる彼女を、熱い質量が貪欲に追い求めてはかき回す。

「……くっ、紺野お前…!」

 たまらず設楽も腰を浮かせ彼女の内部を抉るように突き立てる。腰を掴み、激しく抜き差しを繰り返しては、性器の傍の赤く腫れた突起をこすりつけてやる。
 二人の胸板に挟まれ、その華奢な白いからだが蹂躙される。挟み込まれた胸はこりこりとした刺激を与えては自在に形を変え、熱い肉棒は凶暴なまでにバラバラに尻と膣を犯す。


「や、や、も――あ!」

 頭が真っ白になる感覚とともに、全身がぎゅうと縮こまる。それに合わせて短いうめき声と、途方もない放出感が彼女を襲った。









 無茶をさせた彼女の体を清め、すうすうと眠るその姿を紺野は愛おしむように見つめる。

「本当は」
「……?」
「彼女が、本当は君が好きだったとしたら、どうする?」


 突然のことに思考が止まる。何が――あいつが、俺を好き?


「……そんなわけないだろう。大体俺はこいつに…」


 ひどい言葉を浴びせて、恋を終わらせた。紺野と結ばれるのが彼女の幸せなら、自分はその可能性すら無くした方がいい。そう思っていた。
 だが真実が全くの逆だったとしたら?


「もちろん、本当のことは彼女にしか分からない。でも、真実がどうであれ、僕は彼女を手放すつもりはない」

 その寂しい心をここまで癒して、教えこんで、従わせたのは紺野自身だ。その全てを手中にいれたと思っていた、だがたった一つ彼女の心に残っていたもの。




「設楽、もう一度だけ戦おうか」

 あの高校時分のように。

「彼女の中にはあと設楽――君の存在だけが残ってる」

 三人で遊んだあの純粋な時間。そしてひどい言葉で傷つけられたことも含め、彼女の中には確かに設楽の存在が残っている。
 それが、ひどく許せないのだ。

「君と戦って、彼女の全てを手に入れる」

 その冷徹な視線に是も非も返さぬまま、設楽はその目を伏せた。




(了) 2010.8.3

うんもうなんかごめんわたし変態だった

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