「あー、知ってるぜソイツなら。おかしな仮面つけた赤毛の異人だろ?」※中国語
市中でリナリーが中国語でかいたこの人知っていますか、という文字とクロス元帥の似顔絵を描いた紙を持ち元帥の行方の情報を収集しているとき、
饅頭屋さんで思わぬ情報を得ることが出来そうだったのだが、生憎中国は通じない。
紙を見て、ぐっと指でサインを出した店主に慌ててアレンがリナリーを呼んだ。
「このおじさん何か知ってるみたいです!!」
***
「妓楼の女主人?」
「饅頭屋の店主が言うには最近その女主人にできた恋人がクロス元帥なんだって」
「なんて師匠らしい情報…」
煌びやかなお店の前。
昼間に得た情報を頼りにたどり着いたのは妓楼。
「しかし派手だなぁー」
「ここの港じゃ一番のお店らしいよ」
「ついにクロス元帥を見つけたんか…」
「長かった…」
「てか遠かった…」
「見つけられると思わなかった」
『…よかった』
皆がクロス元帥発見の感動にわいわいと騒ぐ中、一人陰気くさい空気を出すアレン。
きっと見つけてしまった、とか思ってるんだろうな。
店の暖簾を通ろうとしたとき、中から人が出てきた。
「待てコラ。うちは一見さんとガキはお断りだよ」
どん、と現れたのは体格のいい女性。
ばきばきと指を鳴らすその姿は女とは信じられない迫力があった。
何やら歓迎ムードではないのはわかるのだが中国はちんぷんかんぷんだ。
訳が分からずにアレンは謝り、ラビはその人が女である事実に顔を青くする。
そのうちひょい、と軽々襟を掴まれ持ち上げられた二人にリナリーが慌てて中国語で彼らを話すように言う。
「裏口へお回りください。こちらからは主の部屋に通じておりませんので」
次に発した女性の言語は中国語ではなく英語だった。
彼女の舌に掘られた十字架を見えた。
「我らは教団の協力者でございます」
そう言って通されたのは店の外見と同じ、煌びやかな装飾で飾られた広い部屋。
しゃらん、とかんざしが鳴る。
「いらっしゃいませ、エクソシスト様方。ここの店主のアニタと申します。はじめまして」
中には綺麗な服を着飾り、大きな花を飾った髪飾りをつけた美しい女性だった。
色鮮やかな服に彼女の黒髪が良く生えた。
女の私でさえも見とれてしまうほどの美貌の持ち主だった。
「さっそくで申し訳ないのですが、クロス様はもうここにはおりません」
真っ赤な紅で彩られた唇に目が行き、言葉の意味を一瞬理解するのに遅れた。
「「「え?」」」
それは皆も同じだったようで顔を青く染め、ぽかんと口を開ける。
「旅立たれました。八日ほど前に。そして…」
アニタが次に発した言葉に目を見開いた。
『今…なんて…』
私が聞き返したことによって、アニタが悲し気に目を伏せる。
「八日前、旅立たれたクロス様を乗せた船が、海上にて撃沈されたと申したのです」
「確証はおありか?」
「救援信号を受けた他の船が救助に向かいました。ですが船も人も何処にも見当たらず。
そこには不気味な残骸と毒の海が広がっていたそうです」
ブックマンが問うとアニタは淡々と答える。
この人はクロス師匠の恋人だと言っていた。強い人だ、と表情を崩さずに答えるアニタを見上げる。
「師匠はどこへむかったんですか。沈んだ船の行き先は何処だったんですか?」
皆の視線がアレンに向かう。
どうしてそんなことを聞くのかという風に。
「僕たちの師匠はそんなことで沈みませんよ」
『…そうね』
「……そう思う?」
初めてアニタが表情を崩した。
切れ長の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
「マホジャ、私の船を出しておくれ。」
先程店の入り口であった女性にそう告げるとマホジャと呼ばれた女性は一礼すると部屋から出て行ってしまう。
「私は母の代より教団の協力者として陰ながらお力添えしてまいりました。クロス様を負われるのなら我らがご案内しましょう。
行き先は日本――江戸でございます」
***
時間が過ぎ、翌日。
港に泊まっていた大きな船にいた。
さっそく出航する準備に追われる協力者の方には頭が上がらない。
帆の上に上り、海を見渡すアレンを見上げた。
どこか寂し気な表情をする彼に掛ける言葉も見つからずに船内へと踵を返したとき
「みんな!!アクマが来ます!!」
アレンの焦った、大きな声が船に響き渡った。
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