「どうしたの?アレンくん、アンジュ」
「なんか今、視線を感じた気がしたんですけど…」
「『パンダかな?』」
「…ふたりとも、中国だったらどこにでもパンダがいると思ってるでしょ?いないよ」
***
川を下り終わり、今は中国国内の街にいた。
「伏せてください」
「へ?」
アレンの左眼が反応し、小さく言う。
言われた通りに私はしゃがみ込み、装備型イノセンスを手に持つ。
「5」
「4」
「3」
と残りのアクマを数えていくアレン。
一体を林の向こうから姿を現したアクマにイノセンスを投げつけ攻撃、破壊する。
「2」
「1」
アクマを破壊していくのと同時にアレンがカウントをする。
そして最後。
アレンの背後。橋の下から現れたレベル2のアクマをラビが火判で破壊した。
「ぷうっ」
火判をだしたラビが顔を青ざめさせながら不満を爆発させた。
「もぉーイヤさっお前怖ぇ!!アクマよりお前が怖ぇっ!!」
「えっ?どうしてですか、ラビ」
「突然撃ち出すなつってんさ!!」
「仕方ないでしょ僕は少しでも被害をへらそうと」
がみがみと言い合いを続ける二人を視界の端に追いやり、周りを見渡す。
すると上の方から聞き覚えのあるソプラノの声が降ってくる
「どいてっ」
コンマ数秒後、先程まで私が居た場所に何かが物凄いスピードで落ちてきた。
衝撃で二人は数メートル吹っ飛ばされ、橋にクレーターがうまれる。
「ただいまー」
先程まで言い合いをしていた二人も茫然として空から降ってきたその人物を見上げる。
「?なにしてるの、ふたりとも」
思わず乾いた笑いを零す。
空から降ってきた人物、リナリーは茫然と自分を見上げるアレンとラビにきょとんとしながら、先程ティムキャンピーを加えて逃げてしまった野良猫をずい、とこちらに向ける。
「はい。まだ胃袋に入ってないわよ」
太った猫の口からティムキャンピーの翼が見えている。
ぺっと無事に吐き出され、猫は涙目になりながら逃げだしてしまう。
『よかったー、ティム』
「コイツがいねぇとどこ行きゃいいかわかんねぇもんなぁ」
「しかしよく喰われるな…」
「ティムキャンピー。お前も少しは気をつけろよ!」
少し声を強くしていうアレン。
が、彼の頭に止まったままティムキャンピーは何の反応も示さない。
反抗期?とアレンは頭上にいるティムキャンピーを見上げるもしーん、としている。
「それにしても一体いつになったらクロス元帥にたどり着けるんであるか?中国大陸に入ってもう四日。ティムの示す道を行けど一向に姿も手掛かりもない。
まさか元帥はもうすでに殺され…」
「あの人は殺されても死にませんよ」
『言ってることおかしいよ、アレン』
ティムの様子を気にしないことにしたのか、クロウリーの言葉に笑顔を張り付けて言ったアレンに苦笑いを零す。
「でも、こんな東の国まで…一体何の任務で元帥は動いているのかしら」
ふと、視線を下に落したとき、アレンの左腕がぶるぶると震えているのが見えた。
思わずその手を取る。
「え、アンジュ!?あっ」
『……っ』
腕を無理やり取り、袖をめくると目に入った崩れてぼろぼろになってしまっている左腕
「うわ!?う、腕が崩れてんぞ、おい!?」
「だ、大丈夫っ、ケガじゃないですよ?ホラ!最近ずっとアクマと交戦続きだから…ちょっと武器が疲れちゃったっていうか…」
腕のありさまをみてラビが目を向き声を荒げる。
隣に立つリナリーも息を呑んだ。
それにアレンは慌てたように笑いながら言葉を連ねる。
「武器が疲れるなんて聞いたことねぇぞ」
「なんだろ、寄生型だからとか?」
『適当に言ってるでしょ』
「確かにおぬし、左眼が開くようになってからわしらの倍は戦っとるからな…」
『前から思ってるけど…アレンの左腕、少し脆いよね』
アレンが静かに息を呑むのが聞こえた。
彼の顔を見ることが出来ずに下を向く。
「……?アンジュ?」
『――どこにも、いかないで…っ』
夢に見る。
追いかけても追いかけても、どれだけ追いかけて走っても届かないあの人の背中。
なぜかその人とアレンが重なって見えた。
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