呼吸すら聞こえないくらいの静かな森にじゅるじゅる、と血を貪り吸う音だけが響く。
もう動くことのないだろう村人の首筋から血を吸う吸血鬼に誰もその場から動かない。
が、血を飲みこむ、喉を上下する音に堰を切ったかのように村人たちが一斉に走り退く。
吸血鬼との睨み合いが暫し続き、そして三人同時にイノセンスを構え攻撃態勢に入る。
「どうします?」
「どうってなぁ…」
『噛まれたらリナリーに絶交されちゃう…』
一人しかいない唯一の女の子のお友達なのだ。
吸血鬼に噛まれて絶交なんて絶対嫌だ。
「とりあえず吸血鬼にとっては大切な食事でも村人を殺させるわけにはいかない!」
ドン、と突っ込んできた吸血鬼に、アレンが銃型のイノセンスで地面を撃ち、その衝撃で舞い上がった砂と岩で吸血鬼の行く先を遮る。
動きが止まった吸血鬼にラビの巨大化させたイノセンスで吸血鬼の頭上から堕ちた。
鈍い音が鳴り、地面が衝撃で抉れ、砂埃が舞う。
が、吸血鬼は槌の先を歯で噛み巨大化された重量のあるはずのイノセンスが軽々と受け止められた。
『うそぉ!』
「すげェ歯だなオイ!」
槌を噛んだまま体を逸らした吸血鬼に、槌に乗ったままのラビが地面にたたきつけられる。
態勢の崩している吸血鬼に私の鉄扇を投げつけ、追い込み、アレンの左腕が彼を捕らえた。
「捕まえた」
ブーメランのように帰ってきた鉄扇を閉じる。
「おとなしくしてください」
左手に捕らえられた吸血鬼の首元に鋭くとがった親指があてがわれる。
しかし追いやられた状況にもかかわらず吸血鬼は狂ったように笑い始める。
「奇怪な童共だ。私にムダな時間を使わせるとはなあ。お前らも化け物か!ああ?」
「エクソシストです」
「こんばんは。私は忙しいんだ。放せや」
言うや否や、吸血鬼はアレンの腕に齧り付いた。
「いっ!?」
『あぁ!!』
対アクマ武器を歯で!?
ミシミシと音を立ててアレンの左腕から血が吸われていく。
「わ――ーっアレン!!」
が、途中で
「げぇええええ苦い!!おうえぇええ」
洗面器ーと苦しみ叫びながら吸血鬼が森の奥へと逃げて行ってしまった。
「「『……』」」
発動を解いたアレンの左腕の人差し指がさらに赤く腫れあがっている。
「絶交されるなアレン…」
『……』
そっと離れた。
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