灰色歌姫 | ナノ


  








さっき、一つだけ嘘を吐いた。
全く覚えていないわけじゃない。



…最近、夢を見るのだ。




とても、とても、懐かしくて。
優しい――










***








鎖の音がした。
体が重い。
動くたびにじゃらじゃらとうるさい。



『…ここは』





どこだろう。
上を見上げれば両手が縛られて、鎖で天井からつらされている。
脚は、かろうじて地面についている。

そして、私の服は先程の黒じゃなく、淡い青色のドレスを着ていた。


前を見据えればそこには 意識のないアレンがいた。
イノセンスを発動した状態の左腕がアクマによって杭で壁はと縫い付けられていく。
さらにあたりを見渡せば黒いドレスに身を包んだリナリー。外傷はない様だがどこか変だ。




『――アレン、リナリー?』

「あ、起きたんだぁ?」




アンジュ。
名前を呼ばれた。反射的に後ろを振り向けばぽすり、と背中に何かが抱き着いてきた。
それは見覚えのある少女だった。
記憶をたどる。



『…あなた、さっきの』



そこまで思い出したとき、少女がにい、と口元をゆがめた。



「――やっぱり覚えてないんだねぇ。かわいそうなアンジュ」



じ、と瞳を覗き込まれたままそう言った。

覚えて、ない。

この少女は私の覚えてない何かを知っているのだろうか。
口を開きかけた時、アレンが目を覚ました。



『…アレン!』
「アンジュ…」




虚ろな目をしていたアレンに声を掛けたらそれはスッと引き、銀灰色の瞳が私を視界に入れた。


「痛っ」



意識がはっきりしてきたことによって腕の痛みを感じたようだった。そのことに、杭を打っていたアクマがにたりと笑う。
私に向いていた少女の瞳がアレンに向けられた。



「起きたぁ〜?」




アレンの目が次に少女へと移った。


「君はさっきチケットを買いに来た…!?君がロード…?どうしてアクマと一緒にいる……?」



アレンの困惑した表情と言葉に少女がにたにたと笑う。


「アクマじゃない……キミは何なんだ?」
「僕は人間だよぉ」



アレンがそう言った。なら少女はアクマじゃない。
けれど、


「何、その顔?人間がアクマと仲良しじゃいけないぃ?」



少女の手が不意にこちらへと伸びてきて、思わず身構える。
が、少女はその私の様子を見て楽しみながら私の頬を指で撫でる。



「アクマは…人間を殺すために伯爵が造った兵器だ…人間を狙ってるんだよ…?」
「平気は人間を殺すためにあるものでしょ?」




少女の指が私の首に掛けられた。
ひゅ、と喉がなる。



「千年公は僕の兄弟。僕たちは選ばれた人間なの。何も知らないんだねエクソシストぉ。お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ」





少女の白かった肌が次第に黒く、染まっていく。



「僕達こそ神に選ばれた本当の使徒なのさ。僕たち、ノアの一族がね」









 


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