「…スゴイ」
ぼそりとアレンが呟いた。
「アンジュ、リナリー見てくださいよコレ!」
さらに見てください、と言われ、振り返ると、時計にアレンの頭、腕が生えている異形なものが目に入る。
『何やってるの、アレン!?どうなってるのコレ?』
「私の時計――!!」
阿鼻叫喚。ミランダが顔を青くさせ絶叫する。
「この時計触れないんですよ」
『触れない?』
する、と時計から出てきたアレンに目を丸くする。
「今、ちょっと試しに触ろうとしたら、ホラ」
「わっすり抜けた……!?」
「どうやらこの時計に触れるのは持ち主のミランダさんだけみたいです」
試すように私の腕を取り、時計に触れさせようとする。が。通り抜けた。
実際に体験してしまいさらに頭が混乱する。
『…おぉ』
「さっきの時間の巻き戻しといい。これといい。やっぱりイノセンスに間違いなさそうですね」
「ほ、本当なの?この時計が街をおかしくしてるだなんて…」
ミランダは時計に縋りつき、見上げ、戸惑いながら尋ねる。
「ま、まさか壊すとか…?私の友を……」
「『「落ち着いて」』」
急に包丁を取り出し、こちらへ向けてくる彼女に、三人が両手を上げて言葉を揃える。
「でもミランダ。あなた本当に心当たりないの?時計がこうなったのは何か原因があるはずだわ。思い出してみて、本当の10月9日だった日のこと」
諭すように優しい声で尋ねかけるリナリー。
それにミランダが包丁を手から離し、手を額に添え考え始める。
「……あの日は…私、100回目の失業をした日で…」
さすがに三桁目になると感傷もひとしおだったらしく、時計の前で酒を飲んで愚痴をこぼしていたらしい。
そして
”明日なんか来なくていい”
と呟いてしまったらしい。それに思わず私たちは顔を青くさせながら口を開いた。
「……それじゃないの…?」
「え…?」
逆にそれ以外に何があるというのか。
『イノセンスがミランダさんの願望を叶えちゃったんだわ』
「そ、そんな私はただ愚痴ってただけで…だいたいなんで時計がそんなことするの!?」
「ミランダ、あなたまさか…この時計の適合者…?」
ハッとしたようにリナリーが息を呑んで、そう言った。
確かに。ミランダがこの時計の適合者ならうっかりこぼしてしまった願望を叶えてしまったのも納得いく。
「ミランダの願いに反応して奇怪を起こしてるならシンクロしてるのかもしれないわ」
「何?てきごうしゃて?」
『ミランダさん、時計に機械を止めるように言ってみてくれないかしら』
頭の上にはてなを何個も作りながらこちらを見てくるミランダにそう提案をしてみる。
すると何が何だかわかっていない様子ながらも時計に手を添えながら「時計よ時計よ。今すぐ時間を元に戻して〜」と言う。
その後玄関へと走り、ポストに入っていた新聞の日図家を確認する。
が、
『10月、9日、』
「もう一度初めから考え直してみよっか…」
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