灰色歌姫 | ナノ


  











少女が望んだのは愛する人が死ぬ時までそばにいること。
それは誰もが望む願い。

神田とトマを地面にアレンが脱いだ団服を敷いた上へと寝かせて、二人に改めて話を聞いていた。




「昔、一人の人間の子供がマテールで泣いていたの」





その子は村の人間たちから迫害され、亡霊が住むと噂されていたこの都市に捨てられた。
マテールの民が去って五百年。人間が迷い込むのは別に初めてではなかった。

この子供で六人目

五人は私が歌はいかが?と聞くと突然襲い掛かってきた
化け物。そう言って叩きのめして。ただ歌はいかが?と聞いただけなのに。

だからこの目の前の子供も、私を受け家rてくれなかったら殺すつもりだった。


私は人間に造られた人形。人間の為に動くのが私の存在理由



「あの日から80年…グゾルはずっと私といてくれた
グゾルはね、もうすぐ動かなくなるの…心臓の音がどんどん小さくなってるもの

最後まで一緒にいさせて」



ララが思い描き、望むその最後に、アンジュは息を呑む。



「最後まで人形として動かさせて!おねがい」



ララのその表情は人形のそれではない。思わず口を開きかけたその時

「ダメだ。その老人が死ぬまで待てだと…?」


背後で神田が上半身を起こし、言う。


「この状況でそんな願いは聞いてられない…っ。俺たちはイノセンスを守るためにここに来たんだ!!今すぐその人形の心臓を取れ!!」



神田の言葉に、アレンも、私も何も言葉にできないし、動けない。
それに神田は息も荒いまま続ける



「俺たちは何のためにここに来た!?」
「…と、取れません。ごめん、僕は取りたくない」



そろ、と隣にいるアレンを見上げ次に神田を見る。
神田はアレンの答えに目を見開くと、自分の下に引いてあったアレンの団服を彼にたたきつけた。


「その団服はケガ忍の枕にするもんじゃねぇんだよ…!!エクソシストが着るものだ!!!」



投げつけられた団服を身下げる。神田は自分の団服を簡単に羽織ると、アレンの隣をすれ違う。



「犠牲があるから救いがあるんだよ、新人」
『…っ』
「おねがい、奪わないで…」
「やめてくれ…」



ララの切実な声。グゾルのもう消えてしまいそうなかすれた声。
そして



「じゃあ僕がなりますよ」




凛と響いたアレンの声。
思わず、三人を振り返る。


「僕がこの二人の犠牲になればいいですか?ただ自分たちの望む最期を迎えたがってるだけなんです」


私が死ぬ時、私の手でお前を壊させてくれ
先程のグゾルの言葉だ。



「それまでこの人形からイノセンスは取りません!僕が…アクマを破壊すれば問題ないでしょう!?
犠牲ばかりで勝つ戦争なんて虚しいだけですよ!」



ばん、と神田がアレンの左頬を殴りつけた。
その拍子に二人は地面に倒れこむ。


『アレンっ』
「神田殿!!」

「とんだ甘さだなおい…かわいそうなら他人の為に自分を切り売りするってか…?
テメェに大事なものは無いのかよ!!!」



アレンの殴られたほほが赤く腫れる。
二人の会話に、自分が入れる隙間がない。


「大事なものは…昔失くした」


アレンの言葉に、ひゅ、と息を吸い込む。
見ていたのだ、遠くから。ずっと。ずっと。彼の事を。



「かわいそうとかそんなキレイな理由あんま持ってないよ。自分がただ、そういうトコ見たくないだけ。それだけだ。
僕はちっぽけな人間だから大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません。

守れるなら守りたい!」
『アレン…』





アレンの考えを聞き、神田は黙る。
そしてララへと視線を向けた時、彼女たちの腹をなにかが貫いた。
そのまま二人を砂の中へと引きずり込んでいく。咄嗟に伸ばした手も届かない。


「奴だ!!」


周りにある砂がぐるぐると不気味に回り出し、突然背後にアクマは現れた。


「イノセンスもーーらいっ!!!」









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