灰色歌姫 | ナノ


  




『……イノセンス…”鎮魂歌”』


ぼう、と淡い光に包まれる。
あまり頭が働いていなかったのかアレンはイノセンスを体に纏わせて先に行ってしまった。
_追いついたら、早く治癒をかけないと。

遠くで大きな爆発音が響いているのがわかる。
羽衣を纏わせ、いつもはゆったりと歩いているホームを走って蹴って翔ける。

日常であふれているホームが、流れていく景色の中レベル4に破壊されたのか所々崩れ去っているのが見えた。
ぎり、と奥歯を噛む。

捜索部隊の指し示す方向、ヘブラスカの間へと急ぐ。


「離れろッ」


アレンの叫び声。
レベル4の大きな攻撃が彼に向かうのが見えた。


『戦乙女”月女神の矢”』


昇降機が壊れていた。柵を乗り越え、地下へと飛び降り宙を舞う中、体勢を崩さないように矢を放つ。
アレンの大剣とレベル4の攻撃がぶつかり合う。
きっとあの怪我じゃ耐えられない…!

剣を支えるアレンの背後に二人。添えられる手が増えた。
「ふんばりやがれ…っ」
「今はお前しかいねーんさ…っ」
『あまり急がないで…!治癒かけられたのに!』

アレンの背後に降り立ち、イノセンスを発動させる。


『鎮魂歌』
「アンジュ…!」


アレンとレベル4の攻撃の均衡が崩れて弾けた。
風圧に耐えられずに背後の壁に叩きつけられる。アクマの手がアレンに向けられた。
弓を創り出し、レベル4へと標準を合わせる。

『アレン…!』

そのとき向けられたその腕に、リナリーが降り立った。

「よくもホームをめちゃくちゃにしたわね」
「あらてか」

間髪なくリナリーへと攻撃を向ける。リナリーがアレンを抱き込んで、その瞬間攻撃が打ち込まれた。

「アレン…ッリナリ…!まともに食らった…!」
「いや、あたってない」

レベル4はしずかにそういうと上を見上げ跳び上がる。

「え…そんな上まで…!?二人とも見えた…?」
「……見えなかった」
『…まったく、』

呆然と呟いたラビに噛んだも間を開けて言う。
リナリーがイノセンスの発動に成功させたらしい。それも前よりもっと強くなって。

「アンジュまだ動けるさ…?」
『大丈夫。行ってくる』

羽衣を纏えば空を飛べる。双剣じゃリナリーとの共闘は難しい。アレンの大剣を模した物を創り出し、地面を強く蹴る。
アレンとリナリーとともにレベル4へと攻撃を繰り返し、ようやくアクマを地面へと叩きつけることができた。
すかさずアレンとともに大剣をアクマの体へと突きたてる。

「ふ、ざんねんでした」

しかしその二つの大剣はアクマに手で捕まれ防がれる。
でも。

「どうかな?」
『どうでしょう?』

持ち手の場所を下へ移動させた瞬間、凄まじい衝撃音を携えて大剣の上へ降り立ったリナリー。
アクマがうめき声をあげる。
もう一度、リナリーが空高く舞い上がる。再び宙で体勢を直し、こちらへ向かおうとするリナリーを見て、アクマがもがき始める。


「はなす、かッ」
「はなせこのお!」
『…っく!』


決して逃さないようにさらに力を込めて大剣を握り込む。
もがき暴れるレベル4の動きが止まった。
瞬間
リナリーの一撃が堕ちる。
今度こそ、剣が突き立てられた…!


「このビールッ腹野郎が。実験サンプルにしてやる」


壁の一部を破壊して出てきたのは、赤髪を靡かせる師匠だった。
そばでコムイが無線で話す声が聞こえてくる。

「兄さん!?研究室に生きてる人がいるの…!?」
「そうなんですかコムイさん!?」
『本当…!?』
「アレンくん、リナリー、アンジュちゃ……ああ!」


肯定されたその事実に、また涙があふれでてくる。
よかった、ほんとうに。もうだめだとおもった、
大剣を握る力が緩んだ、そのとき、足元で再びアクマが動き出す。

「いのせんすだいきらいぃぃっ」
「コイツ…まだ動けるのか!?」


足掻くアクマの掌がこちらにかざされ、攻撃を躱すために仕方なくアクマを貫く大剣から手を離し、その場から離れる。
手が話された大剣をアクマが引き抜き、こちらへと投げつけてくる。
寸で体をずらし、避けると背後の壁に大剣が突き刺さった。


「あまいね、このぼくが、このくらいでこわされるわけないでしょうッ」
「いいや、お前はぶっ壊れんだよ」


壁に突き刺さったアレンの大剣にクロスが足をつける。

「理由を教えてやろうか」

間髪入れずアクマへと近づき近距離で断罪者を放った。
が、放たれた銃弾はアクマの手によって防がれる。

「ふ…っあまくみられたものですね…っこんなもの!!」
「見えたのは一発だけか?」

頭に、肩に、腹に足に、

「…うそ」

穿たれた銃弾がぼこ、と音を立てて膨れあがっていく。


「おっとそうだ理由だったな。一発は教団の連中の分ってことにしてやろう一応な。
あとアンジュの顔面に傷をつけたので一発。あいつの顔面だけはいいんだから。俺だってひどい人間じゃない。
で、残りはオレの服を台無しにした分だ」


そう、にっこりと。にっこりと笑って言いのけた。
ドン引きである。ほぼ自分の服をボロボロにされた怒りしかないじゃないか。
額に垂れる血を思わず拭った。

アクマが最後の力とばかりに振り絞って上へ上へと飛んでいく。

「上に逃れるつもりだ!シャッターを閉めろ!ヘブラスカ」
「だめだ、間に合わな…」

白いベルトが、伸びていく。アレンのイノセンスだ。

「行かせるか!!お前はここで破壊する!!」

閉まろうとするシャッター目前で引き止められたアクマの目に、シャッターを超えた先に待ち受ける二人の元帥が映る。
…詰みだ。
行動を封じられたアクマにアレンとリナリーがイノセンスを構え、トドメをさそうとする。


『戦乙女”月女神の矢”』


二人を避けるようにして、弓を構え、放った。





 


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