灰色歌姫 | ナノ


  





「おい、おい起きろアンジュ」


ペチペチと頬を叩かれていた。だんだんと力が強くなってくる。
目を開けると、クロスに抱きかかえられていた。こういうとき自分が女でよかったと思う。師匠は女の子にはすこぶる優しい。


『…いたいです、ししょ』
「…ノアに記憶を刺激されたか」
『、』


周りに聞こえないような声でささやかれた。
腕から降ろされながら視線をそらす。

『…夢を、見た気がします』

まだすこし頭がぼうとする。また変なものを見てしまった。
ふるふると首を振って頭を冷やしながら周りの状況を確認する。
周りにいたアクマたちは元帥たちが倒してくれたらしい。残骸とガスで研究室が霞んで見えた。


「お前まだ戦えるな」
『え、ええ、大丈夫です』
「今からプラントを壊す」


また私は大事なところで眠ってしまっていたらしい。
色のノア、ルル=ベルが方舟へと持ち帰ろうとしたプラントをミランダの能力で時間を吸い出しここに縫い止めているのだと。アレンと共に連れ去られようとされていた時に元帥たちが登場し、いまに至るらしい。

クロス師匠に言われ、イノセンスを発動させ双剣を作り出し強く握る。


「こいつはダークマターの塊だ。一撃で壊すには俺とクラウドとソカロ、あとおまけにアンジュでかかるしかないがそれで行けるか保証はできんぞ」
[なんとか頼みます]
「仕方ない」


無線でコムイさんと連絡を取り合っていたらしい。
近くにミランダとマリ、そしてソカロ元帥とクラウド元帥の姿が。錚錚たるメンツだ。


「いつでもいいぞミランダ」
「は、はい」


ミランダが発動をといた瞬間にプラントは方舟へと吸い込まれていく。
その前に。と深く握り直した瞬間、ミランダの足元から水が溢れる。
溢れ出たその水は意思を持ったかのようにミランダを取り巻き、呼吸を奪う。

「くそっ液体じゃ捉えられない!なんだあれは生物か?」
「”色”のノアだな、あれはあらゆるものに変身できるぞ」

マリがイノセンスを伸ばしミランダを奪還しようとするも糸が水をすり抜けて捉えられない。
ノアはミランダの体を水の中に閉じ込めたままプラント、卵の元へ向かっていく。


『!卵が沈み出したわ!』
「ミランダの発動が止まったか…!」


ノアはまるでプラントを守るかのようにこちらへ視線を動かす。
すかさず元帥たちがプラントへとイノセンスで攻撃するも全てノアによって妨げられる。


「断罪者装填 ”原罪の矢”」


隣でクロス師匠が打ったイノセンスの風圧で髪紐を失っていた長い髪がばたばたと煽られる。

『幻想曲戦乙女”月女神の矢”』

師匠に習って双剣を弓矢へと創り直すとイノセンスによって作り出された弓を引き放つ。
ミランダの体を避けながら、何発かイノセンスを撃ち放つ。
でも、元帥たちの猛攻撃によってプラントにヒビが刻まれていくも方舟に飲み込まれていくのをマリのイノセンスでも止められない。


「ノアもろともデカイのを打ち込まない限り負けだねェ?」
『!』
「まああの女もエクソシストだ。覚悟はできてるだろ、なぁ?」
「………卵破壊を優先だろうな」

師匠がそういった。
それはつまり、ミランダを


「待ってください元帥!!」


マリの叫びを無視して、ソカロ元帥、そしてクラウド元帥までイノセンスを構えて


「断罪者滅罪レベル3倍いっとくぜ」
『…まって!』


卵の優先をすべきだ、でも、それでもミランダを見殺しに、まして巻き込むなんて

「数少ない仲間を手にかけてでも止めるのか?この女の能力、貴様らには貴重なものだろう」

攻撃の標準を卵へと向ける元帥たちにノアがミランダの体を卵の盾にするかのように押さえつける。
「卵もろとも道連れだ!!」


視界の端で純白がなびいた気がした。
「ナメんなよ」
師匠の口元がつり上がる。

その瞬間3人の元帥の最大火力がぶつかり合った
凄まじい衝撃を感じ、揺れる地面に立っているのもやっとだ。思わずその場に膝をついて耐える。
風圧に耐えながら目を開け、卵があった方へと視線を向けると、方舟に飲み込まれた後だった。波紋だけが残っている。


『…ミランダ、』


呆然と思わずつぶやいてしまった名前に、となりに立つクロス師匠の大きな手が頭に乗る。

「ひでぇ師匠だなオイ。飛び込んでくるとわかってて本気で撃ったろう」
「ふ…よけて撃ったさ。構わん、あれも一応は臨界者だ」

目の前にパタパタと金色の羽を羽ばたかせてティムが擦り寄ってくる。
小さな手が指す方向はプラントが沈んだ方舟の先だ。
大きな爆発が方舟内から起き、同時に純白のマントが靡く。
その腕には


『アレン…!ミランダ!』
「……タチが悪い…」
「信用してやってんだよ馬鹿弟子」


二人が方舟から脱したと同時に、方舟の扉が閉じる。
アレンが抱えていたミランダの体をマリに預け、ブックマンがミランダの様子を見る。
大事無いようで、ほっと胸をなで下ろす。

これで元帥たちが倒したアクマ、方舟と同時に退いたノアで、もう安全なはずだ。とイノセンスを解除し弓を下ろす。
なのに、


『…アレン…?』


遠くを見たまま視線をそらさずにいたアレンが突然駆け出す。
尋常じゃない彼の様子に師匠に断りも入れずにアレンの駆け出していってしまった方向へと追いかける。

__くすくすと笑い声が、聞こえた気がした。



 



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