灰色歌姫 | ナノ


  







「アンジュ、アンジュ!!起きてください―――ッ!!お願いだから…ッ」


ぽた、と何かが頬に当たって落ちた。



『……、』



アレン、とかすれた声で名前を呼んだ。



「アンジュ!!」



がば、とアレンの顔を見る暇もなく、力強く抱きしめられる。
アレンの肩越しに、傷だらけのラビ、リナリー、チャオジーの顔が見えた。

嗚呼、こっちに戻ってこれたんだ。
…大丈夫、私は今を生きているんだ、目の前にいる人たちを愛してる。

リナリーが口元を両手で覆って泣きそうになってる。



『…これ今どういう状況なのか聞いてもいい?私、どれくらい…』
「アンジュがロードの能力で動かなくなってしまっていた間に、ティキ・ミックとロードを倒しました。」

『ロードを…?ごめんなさい、私がもっと強かったら…』




本当に…?



「それよりアンジュ、キミ目の色が…?」
『?』


アレンが私の顔を覗き込んで何かを言いかけたのを、


「ねえちょっといい?」


リナリーが何かを考えるようにして遮る。


「ロード消えたけど…この塔の上にある出口の扉はロードの能力なのよね…?」



一瞬の沈黙。
そのあとに絶叫が響き渡る。



「ラビッ!!伸です伸!!天井の穴からッ」
「つかこのありさまで扉があったとしても無事なんスか…?」
「…ラビのイノセンスってホント危険だわ……」
『…え、これラビのイノセンスのせいなの…?ホントになにがあったの…』


改めてアレンから離れて周りを見上げると何かヘビのようなものが灰になってそこら中にうごめいているように見えた。
ラビの火判?


「オレが先上行って無事か見てくる、いけたらすぐ引き上げっから!」



伸ッ、とイノセンスを伸ばして上へと向かったラビ。
それを見送った直後に、大きな地震がまた起こる。


「地震が…」
「ここも崩壊が始まったんだ、座ってましょう」



そう言ったアレンに手を引かれ、隣に座り込む。

ここの崩壊が始まってしまったっていうことは、前にいた部屋はどうなっているんだろうか、
神田…クロウリーは…
地震の影響で崩れていく灰の塊を見つめているとリナリーが不意に口を開いた。


「アンジュとアレンくん、扉があっても自分たちだけ入らない気でいる?」


リナリーの言葉に、アレンと二人顔を合わせた後に、二人同時にリナリーを見つめる。


「『さすが…』」


ごまかすように二へ、と笑ってみるもアレンの方にリナリーの鉄拳が飛んでしまった。
脚が使えなくなってから少しだけ凶暴化しているような気がしなくもない…。



「神田とクロウリーがどこかで足止めくってるかもしれません」
『それに師匠のことも気になるわ』
「方舟が崩壊する前に探しに戻ります」


よかった、アレンと同じこと考えてた。

「私も…ッ」
『リナリーたちは先に外に。この中じゃ私が一番動けるわ、何もできなかったもの…』
「僕だって動けますよ!アンジュ!!」


胸の前で両手をぎゅうと握りながら言うと、アレンがずいっと顔を寄せて私の握った手の上に大きな掌を重ねてくれる。


「辛いこと言ってるのはわかってます。でも聞いてください」


リナリーの両目から溢れ出た涙をそっと優しく拭って笑ってみせる。
左肩に、アレンの手が添えられる。


「ひどいって思ってるよ…っ、二人はいっつもそうやって笑う…ッ
人がどんな気持ちになってるかわかってて笑うんだから…っ。でもね、私が二人の考えてることが分かったのは、私が…今同じ立場だったら同じことを私もすると思うから」



リナリーの顔をまっすぐ見つめることが出来ずに、そっと私の手に添えられたリナリーの手を見つめた。


「ホームに、みんなで帰りたいもの…ッ」






 


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