灰色歌姫 | ナノ


  






見上げる限りずっと続く階段をずっと上り続ける。
ねん挫した足のテープをまき直し、アレンに手を引かれながら一歩一歩を上る。

その私の後ろでラビに手を引かれながら、息を荒げながらも足を動かし続けるリナリー。


「大丈夫さ?リナリー、アンジュ」
『私は大丈夫だよ、ちょっとひねっちゃっただけだし、アレンの手を借りてるから大丈夫』

「私も大丈夫、歩ける。って言ってもラビの手にひかれてるから偉そうに云えないんだけど」




いつも通りのやり取りをするアレンとラビに、こんなにも懐かしく感じてしまう。
ここずっと大変な事ばかり起こってたから余計に。

そこにいる存在を確かめるようにぎゅっとアレンの手を握った。



「アンジュ?」




それに、ずっと考えてる。
私は、なんなんだろうって。私はイノセンスの適合者で、アクマを破壊するエクソシストだ。なのに、伯爵や、ノアたちは、私を、まるで仲間みたいに…

ふるふるとその考えを消すように首を振る。

今はそれどころじゃないんだから。
戦えないチャオジーや、リナリーを守らないといけない。大切な人たちを守らないといけないんだから、



「『強く…頑張らなきゃ』」

「「がんばる?」」




リナリーと声が被った。
二人で顔を思わず見合った。


「やっぱり足無理してるでしょ二人とも!」
「ち、違うの考え事!教団に帰ったらすぐ鍛錬し直さなきゃなって…ッね!アンジュ」
『わ、私は…うん!そう!だよ!!』
「うへぇっお前ら何、真面目なこと考えてんさぁ!?」



ラビは驚きに顔を真っ青にして自分の体を抱きしめるようにドン引きする。



「俺寝る!!!寝ますよそんなん!!」
「ね、寝てもいいよ別に」
「誰か毛布かけといてさ!」



あ、コムイさんが言ってた通りだ。



「ダメだなリナリーもっと色気あること云わんと恋人できねぇさ!だからアンジュとアレンに先越されてんさ!」
「ラビに関係ないでしょ!!」
『ていうか言ったけ!!?』
「そんなんお前ら見てたら分かるさ!!!見せつけやがって!!」




リナリーに胸倉掴まれた挙句、アレンに顔面を蹴られたラビ。さすがに同情する…。


「か…ッ関係はねぇけどさ…」



頬を染めてリナリーから目を逸らすラビに、にや、と笑みがこぼれる。ははーんそういうこと…。



「あ、アレンは帰ったら何すんさ?」



しどろもどろになりながら話題を切り替えたラビに思わず吹き出してしまった。


「たべます。ジェリーさんのありとあらゆる料理を全ッッッッ部!!!」
『ジェリーさんが大変…ッ』


ぐっと右手を握り締めながら言い切ったアレン。
やっぱりというかさすがアレンだ。



「ぶっあはっはははは、ハッ」




耐え切れないと笑うばかりのチャオジーにみんなの視線が集まり、それに気付いたチャオジーがわたワタと慌てる。



「す、すいませんッス。なんか今のエクソシスト様達見てたらオレらと同じ普通の人みたいで…神の使徒様なんていうからもっと人と違うこと考えてる人達かと思ってたっス冗談いって笑ったりとか………恐怖とか……そういうの、ぜんぜん…ないのかと……ッッ」




ははっと笑い、ごまかそうとするチャオジーの手が、身体が震えていた。
震える手をギュッとアレンが上から包み込む。



「あとひとつ…この先に待ってるものを乗り越えればきっとホームに帰れますよ」



階段の続く先、見上げると次の部屋に続くであろう扉がもう見えていた。



「不安な時は楽しいことを考えるんです。元気がでます。大丈夫」




微笑みかけながら言い切るアレンにチャオジーが目に涙を浮かべながらコクっとうなずいた。



「か――ーッこんなときにのんきレロねぇお前らッ、そんな叶いもしないこと考えたってもうムダだってまだわからないレロか?」
「そんなことないよ、レロ」




レロが割り込み嫌味を言うのにも動じずにアレンが言う。



「僕が教団で一番したいことは皆でコムイさんたちにただいまを言うことです。
どんなに望みが薄くたって何も確かなものがなくったって、僕は絶ッ対諦めない」



レロにニコッと笑いかけたアレン。
アレンの思いは眩しいくらいに強い。まるで光みたいだ。

私の手を握り直し、階段を登り切ったその先、




「アンジュ!アっレーン!」




階段ではない、続いた部屋の地面に足を踏み入れた瞬間、聞いたことの或る高い声に名前を呼ばれる。
そして次いで軽い衝撃、


『ロード…ッ?』
「キャホォ〜vV」




ロードが私の首に腕を回し、抱き着いてきたのだ。それを態勢を軽く崩しながらも受け止める。


「ちゅぅ!」
『!!?』



そして、あろうことかロードが私に口付けてきたのだ

『…!』
「んふふvVかっわいいぃアンジュ」


ちゅっとリップ音を残してロードの唇が離れていった。
口元を腕で覆い、後ろに立っていたアレンにもたれ掛かるように崩れる。


「アンジュ!?アンジュ!!大丈夫ですか!!しっかりしてください!!」


アレンに肩を掴まれぐるんと向きを変えられアレンと向き合う形にされ、唇を彼の持っていたハンカチでぐいぐいと拭かれる。



「ロード、なにお前…?姫さんのことそんなに好きだったの?千年公以外とちゅーしてるとこ初めて見たぞ」



広い部屋の中、真ん中に置かれた長い机の一番奥に座っていたティキが言った。



「アンジュは特別vVティッキーにはしなぁーい」
「何してんの座って、待ってる間に腹減ってさ、一緒にどう?闘る前にちょっと話したいんだけど?」
「お断りします。食事は、時間があるときゆっくりしますから」
「その時間?あとどれくらいか知りたくない?」



ティキの言葉にハッとし、目を見開く。



「外、絶景だよぉ」




ロードの言葉に押され、部屋の外を見渡せる場所へと駆ける。




『…そんな、街が……』
「無…ッ…」

「あと一時間もないかな。残るは俺たちのいる子の塔のみ。ここ以外はすべて崩壊し消滅した」




その残酷な事実に、頭に浮かんだ神田とクロウリーの顔。



「そんな…ッ」



ばたん、と大きな音が響く。
それはロードが私たちが来たその扉を閉じた音だ。さらにその扉が開かないように鎖と鍵で厳重に閉じられてしまう。



「座りなよ」
「座れよ、エクソシスト」



ノアの言葉に私たちはその場から動くことが出来ない。
だって、そんな。この場所以外がすべて崩壊してしまったことが本当なら、今まで私たちを先に行かせてくれた二人は、もう――…



「恐ろしいのか?」




ワイングラスに口をつけたティキにアレンが、ガタン、と音を立てて、彼と対面する場所に腰かけたのだ。






 


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