「吸血鬼ではない…ッ、私はアレイスター…アレイスター・クロウリーである……ッッ!!」
荒い息で、満身創痍のその状態でなお立ち上がるクロウリー。
「吸血鬼と呼ぶな…ッ!」
「そんなの僕らの勝手でしょ――あんなに出血したのにまだ動けるんだね、ホントに化物なの?」
動くたびに靡く長い金髪。
ジャスデビを睨みつけるクロウリーの体が大きく傾く。
「クロウリーッ」
「大丈夫かおい!?さっきの傷相当深いんじゃ……ッッ」
それをアレンとラビが二人がかりで支える。
「大丈夫でだる……」
『ク、クロウリー…』
その傷、と思わず口元を抑える。
体を支えたアレンの左手が彼の血でぐっしょりと濡れたのだ。
「ちょめ助からもらった血の瓶はあと何本残ってるさ…?
「……三本…」
…次の扉はもう開いている。こんなところで全員ぐずぐずしているわけにはいかない…。
誰かが残って、ジャスデビを…。
「逃がさないよ。
キミ達全員皆殺しなんだからぁ―――ーッッ!!!」
ジャスデビが振りかざした腕。その衝撃だけで吹き飛んだアレン。
「うわッ」
『アレン!』
「この…ッ火判ッ!!!」
ラビが宙を飛んだジャスデビに向けてイノセンスで攻撃。
「あああつツ」
「あれっ…やったか…ッ!?」
炎に包まれたジャスデビが悲鳴を上げるのを聞き、思いのほかあっさり撃退できたと思われたその時、ラビに向かってジャスデビの手が伸びる。
「暑つッ…」
にこっと笑いながらラビの顔を殴り飛ばし距離をとるジャスデビ。
その視線が私の方を向き、そしてクロウリーへと移される。
揺れる長い金髪が意思を持ったように動き、クロウリーの体を貫く。髪を掴みぬこうとするクロウリーへ拳を打ち付けた。
「今の僕ら…攻撃も、強靭さも、子供だと思わないでね」
ジャスデビが軽く腕を振るっただけでクロウリーの体がいとも簡単に宙に浮く。
その圧倒的な力に、足がすくむ。
「今ねッジャスデビはぁッ!想像上、最ッ強の肉体を実現中なんだからサッッッ!!!」
が、こんなところで足止めを食うわけにはいかないのだ。
両手に創造した両手剣を握りしめ、地面を踏みしめる。
『…このッ!』
だんっと地面を踏み、ジャスデビへと両手剣を振りかざす。が、
ジャスデビの髪で両手を封じられ、持ち上げられ足が地面から離れる。
「…ッの!アンジュを放せ!」
「いいよッ」
アレンとラビが同時にジャスデビにイノセンスを向けるも簡単に両手で封じ込められ、さらに私の体がアレンの方へと投げつけられる。
『うあっ』
「っらあ!!」
ラビが巨大化させた槌でジャスデビをつぶしたかと思ったが、
「全部遅いねッ!!対アクマ武器にばっか頼ってないで、肉体もっと鍛えたら?エクソシスト。とても僕らには勝てないよッッッ!!!」
そう言いラビがジャスデビの攻撃で飛ばされ血を吐く。
その時、ジャスデビの金髪を誰かがグンと引っ張り叫ぶ。
「アレン!ラビ!!リナリーたちを連れて次の扉に入れ!!」
クロウリーがジャスデビを羽交い絞めで抑え込みながら叫んだ。
「放せ変態ッッ!!」
「行くである……ッッ!!」
抵抗するジャスデビになお手を離さないクロウリー。
床にひびが入り、この部屋にもついに崩壊の域が到達したことを知る。
「アレンッッアンジュ!ラビッッ!!!早くっ!!この部屋も限界である!ここで全員…朽ちるわけにはいかんであろう!!!」
「僕が残りま…ッ」
「早く行けッッッ」
今でさえとてもひどいけがだ。その状態でジャスデビを一人相手するのはきつすぎる。
アレンが思わず食い下がったのを遮って止める。
「でもキミはケガをッッッ!!」
「だからだ!!私の…ッッ、この傷ではそう長くは戦えない…!!この先のドアの…向こうで…誰がリナリーとチャオジーを守れる…!!お前たちしかいないと信じてるから…行けと言ってるのだ…ッッ!!
信じているのだぞッッッ!!!行けぇッッ!!」
クロウリーの気に押されて思わず隣にいるアレンの顔を見上げる。
その瞬間クロウリーの姿が崩壊する床の衝撃で巻き上がった砂埃で見えなくなる。
一度うつむいて、上げたそのアレンの顔を見た時はっとした。
『…あれん、』
掴まれた腕を引かれ、その場から離れた。離れてしまった。
***
「クロウリー!!ダメよッッあんなにケガしてたのに、戻らないと…」
『リナリーッ』
無理やりリナリーを連れて次の扉へと飛び込んだ私達。
バタバタと暴れながら戻ろうとするリナリーを必死に抑える。
「はなして!これ以上みんなバラバラになっちゃだめだよ!!」
「リナリー!!!」
アレンがひときわ大きな声で彼女の名前を呼ぶ。
「ダイジョーブですッ
絶対みんなで一緒に教団に帰ります。クロウリーも神田もそのつもりですよ。僕も諦めてません。あがいてあがいて全部全部守ってやるって思ってます」
そうだ。アレンが決めたんだ。私もちゃんとしないと。
仲間を信じるって決めた。信じて前に進むって決めたんだから。
『いつも強いリナリーらしくないよ、私達よりお姉さんでしょう?』
「お兄ーさん達も諦めてねーさ!」
ごき、と首の音を鳴らしながらアレンの頭をどけてラビが割り込んできた。
「それに、クロちゃんにはちょめ助からもらったアクマの血液の小瓶が三本ある。やる男だぜ、クロちゃんはッ」
だから信じろよ。この絶望的な状況でそれはしんどい話だけど、信じて戦う――ーそれしかねぇんだよ、そういうラビに深くうなずき、両手をぎゅっと握った。
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