灰色歌姫 | ナノ


  





「装填青ボム!イッちまえクロス弟子――――!!」



ガチン、と銃を装填する音が響き、二人は完璧にアレンを狙い撃ちするつもりらしい。
部屋の壁を沿って走り逃げるアレンの後ろには凍り付いた本が点在していた。



「装填赤ボム!灼熱の赤い惑星!!」




ノアには個々の能力があり、この二人の能力はモノを凍らせるものだと思ったのだが、次に撃ってきた炎の塊にその考えは掻き消された。

撃ち込まれた炎の塊を何とか防ぐが、その後ろからもう一つ撃たれていたらしい、反応の遅れたアレンに火の塊が迫る前に、ラビとクロウリーが横から入り、それをジャスデビに向かって撃ち返した。


「テメェらアレンばっかァ―――狙ってんじゃねェ――――!!!」



が、双子に撃ち返した炎の塊は忽然と姿を消した。


『消えた…?』
「は?どこ行った!?あの火の玉っ」


双子の口元が歪に歪んだ。


『…ただ銃を撃っているわけじゃないの…?』
「ジャスデビたま!!伯爵タマからのクロス討伐の命はどうしたレロ―――!!」


突然静かにしていたレロが大声で二人に向かって叫ぶ。
それを二人は無表情に銃口をレロに向け銃弾を発射。


「だぁーってろボケ!穴だらけの傘にすんぞ」
「クロスは江戸のどこ探してもいなかったんだよ!このぼろ傘が!!」



レロも一応伯爵側なのに容赦ない。
しかもクロス師匠を追い、こんな東の果てまで来たのに、江戸にいないなんて、


「千年公はクロスの野郎の狙いが方舟かもっつってた」
「だから!ここに奴が現れる可能性に賭けて待つことにしたんだよ!!」
「「いーだろ!それまでアイツの弟子でヒマ潰ししたって!!」」



二人そろってアレンを指さす。
うーん、一応私もクロス師匠の弟子なんだけどなぁと一人首をひねる。


「「ついでにっアイツにつけられた借金もコイツに払わせんだよ!!」」


くわっと物凄い形相で言い切る双子に、私たちに衝撃が走る。


『しゃ、借金…?』


まさかアレンやクロウリーだけじゃなく敵側の人間にまで借金をつけるなんて、
…クロス師匠ならやりそう。



「そーだよ!あの野郎俺らに借金つけて逃げ回ってんだ!!悪魔みてぇなヤローだぜ、チクショー」
「これがその請求書!締めて100ギニー!!きっちり払ってもらうかんな弟子ぃぃ!」




金髪の、ジャスデロが両手に見せつけてきたのは請求書と思われる紙の束。


「敵に借金…か、なんとも言い難い」
「そら怒るわ…」

『……アレン?』
「借金って言葉にダメージくらってんのがこっちにも!!」



私たちの後ろでアレンが借金と書かれた大岩に潰されているように見えた。
見えただけ。



「100…ひゃくぎにー…ひゃく……」



俯きながら100ギニーの金額を唱えるアレンはなんというか不気味すぎる。
こわい。


「…かが…たかがっ100ギニーでしょ」



突然アレンの頭からニゴリ、とまがまがしい角が生えたように見えた。
ラビも同様だったようで顔を真っ青に染めて目を向いている。


「たかが、100ギニーぽっち?あはは…」
「アアア、アレン!!」



ゆらり、と立ち上がり、振り返りながらジャスデビを睨みつける。



「そんなはしたガネ、つけられたくらいでなんですか!!」
「なっ…!!何ぃ!?」

「僕の借金に比べれば…」




軽すぎ、と呟くアレン。
そういえば私もアレンが師匠に借金をつけられているのは知っていたけど、ずっと聞いても「アンジュは知らなくていいんです」とはぐらかされていたのだ。

いったいどれだけ借金背負わされてるんだろう




「はした金だぁあっ!?」
「ぶっ殺すぞヒィ―――!!」

「それに…僕の師匠は悪魔みたいな人なんかじゃない…!」





その先になにが続くのか、一同がごくりと唾を飲み込む。
そこまでの事をされて師匠の事は知ったっているのかも!と希望を抱いたのもつかの間、



「正真正銘の悪魔なんですよ!!師匠と関わるんならそれくらいの覚悟して行けってんだ――――!!!」



儚い希望があっさりと打ち砕かれた。



「ぶッ…ギャハハハハ!!」




ジャスデビが同時に笑い出したかと思ったが、次の瞬間アレンに銃が向けられ、大きな爆発が起こる。



「ジャスデロ!騙しメガネいくぞっ」
「ヒッ!」



爆発を避けたアレンが左腕で応戦する。



「紫ボム!!」




撃つよりも先にアレンが二人の首を、



「え…っ!!」
「やーい、かかったなバァーカ♪」




アレンが捕らえた二人の首はいつの間にか人形にすり替わり、
さらにエクソシスト、チャオジー、レロも例外なく、目の周りに紫色の模様が浮き上がる。


「な、なんだ!?」

「騙しメガネ。もうオレらの姿は見えねェよーだ、ギャハハハ」

「ち、どこ行きやがった!?」



声は確かにするのに、部屋を見渡しても双子の姿は捉えることができない。


「みんな床を見て!!」


リナリーの焦った声にみんな一斉に足元を見下ろす。
その光景を見て目を見開く。

床一面を埋め尽くす鍵の山。


「うわっ何スかこのカギの山!?いつの間にこんな…」

「あれ…?この鍵…私たちの持つ鍵と全く同じ…」

「…しまった。アレン!オレらの鍵あるか!?」


ラビの言葉にアレンがハッとし、団服のありとあらゆるポケットを調べるが


「えっ?な、無い!?ポケットから無くなってる!!」

「ギャハハハハハハ!!」

「残念でしたぁ大事な出口の鍵は隠れちゃったよ〜〜ヒヒッ!!」



出口へとつなぐ鍵はなくなり、ジャスデビを倒そうにも二人の姿は私たちの視界に映ることはない。



『あのふたりの姿も鍵もないって…少しやばいんじゃ…』
「このノアの能力…一体なんなんだ!?」




隠れたノアの双子。
静かにその銃口が集まり、背を任せ合うエクソシストに向けられた。







 


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