「…アンジュ?」
『…え?』
先程、足を庇って歩いて居ることをアレンにバレてしまい、軽く足首を固定して、さらに手を引いて歩いてもらっていたところだった。
急に名前を呼ばれ、アレンを見上げると彼が目を見開いた。
「やっぱり痛いんでしょ!!?」
『…あれ、なんで』
がしっと肩を掴まれぐい、と顔を近づけられやっとわかった。
アレンの瞳の中に映る私が涙をぽろぽろと流していたのだ。
前を歩いて居たみんなが私を見て、心配してくれた。
けれど、あふれた涙をいくら拭っても、拭っても
『…ど、して…、止まらな…ッ』
どこかが痛いわけじゃない。
悲しんでいるわけでもない。
けれど一向にとまる気配のない涙。
――私の中に、だれか…
肩を掴んでいたアレンの力が緩み、見上げると先程まで歩いてきた長い廊下を振り返っていた。
『…アレン、どうかした?』
漸く止まりかけた涙をぬぐい、問いかける。
「なんか今、後ろから音がしたような…」
『神田、かな』
「いえ、何かが割れるような音で」
す。と言い終わる前に私達が立っている地面が割れた。
「わああ何!?」
地面が持ち上がり、アレンと二人、宙を舞う。
「すっすみません、アンジュ!ありがとうッ」
『平気っ』
「床がっ崩れて来たぁあ」
慌ててイノセンスを発動させ、現れた衣を羽に変化させる。
アレンの体を後ろから抱き着くように抱き上げ、空を飛び、何とか崩れた地面と共に下に落ちることを回避した。
そして、崩れていく床から逃げるように走るラビとチャオジー、走れないリナリーの三人を抱えクロウリーが地面を蹴り一気に廊下を駆け抜ける。
それを追いかけるように、アレンを抱え空を飛んだ。
「あっあそこ見て!」
「廊下の終わりだ!!」
白く光るように存在を主張する一つの入り口。
そこに飛び込み、勢いを止めるように羽を動かすと、静かにアレンを地面におろした。
続いて、私もイノセンスを解き、地面に降り立つ。
「ここは…」
「ここもまだダウンロードされてない方舟の空間なんですか」
「レロ〜」
アレンが問うと意外と素直にレロは教えてくれた。
「書庫みてぇさ…」
ラビの言う通り、この部屋は書庫のようになっていた、周りの壁一面にずらっと並ぶ本。
天井まで伸びるその数はどれくらいあるのだろうか。
「よぉエクソシスト」
声の方向、部屋の中心へと身体ごと向きを変える。
と、褐色の肌。ノアだ。しかも二人。思わず顔をしかめた。
「デビットでぇっす」
「じゃすでろ、二人合わせてジャスデビだよヒヒっ!」
黒髪がデビット。金髪を長くのばしているのがジャスデロ。
お互いに銃を向けあい名前を名乗った二人に、思わずその着ている服を凝視してしまった。
「じ…じゃす…?」
「またファンキーな奴来たな…アンテナついてんぜ」
よく見て見ればチョウチンアンコウのようなそれがジャスデロ、の方の頭についていた。
「オレら今、ムシャクシャしてしょうがねーんだわ。アレン・ウォーカー
テメェにゃ何の怨みもねぇが!」
「クロスに溜まったジャスデビの恨み辛み弟子のお前に払ってもらうよ!」
「「天誅!!」
そういった二人が銃をアレンへと向け、パンパンと撃っていく。
それを何とかギリギリで躱していくアレン。
「ちょ!師匠が何て言いました!?」
離れていた場所から、一気に距離を詰めて、両側を塞いだ二人がアレンを挟み撃ちにする。
「師匠のツケは弟子が払ってんだよ!」
「 装填 青ボム 」
『銃の威力が変わって…!?』
先程までの元と違い、音も衝撃も段違いに上がったそれに思わず声を上げる。
「銃じゃねぇよ、弾が変わったんだ」
「キミ達、師匠を追ってるノアですか?」
銃で撃たれる寸前に神ノ道化のマントで攻撃を防いでいたアレンが、衝撃で巻き上がった煙の中から現れる。
「僕にウサ晴らしに来るってことは、元気みたいですね、あの人」
マントを伸ばし、ベルト状にしたものをノア二人にぶつけ、周りの本棚へとたたきつけた。
「何?あいつらお前狙い!?」
「どうやら…師匠絡みか…」
じゃあどうして私を狙わないんだろう、と思ってしまった。
そして考えた、ただ単に私もクロス元帥の弟子だと聞かされていないからなのか、
伯爵の探している歌姫と私が同じだからだろうか、と。
ティキの言動から傷つけるなって言われてるのは間違いない。けれど、なんで…
「それより気をつけてください。あのふたりの撃ち出すモノ…ただの弾丸じゃありません。何か能力がありますよ」
そういって右腕を押さえていた左手をどけたアレンの腕は凍っていた。
『今、治すから…っ』
「ありがと」
唄を口ずさみ、光を纏った掌をアレンの腕に翳した。
すると段々と凍っていたものが解けていくのを見てほっとする。
「ヒッ!ひとつ聞くけど、お前人質に取ったらクロスの奴おびき出せる?」
「まさか」
「ギャハ!即答!!信用無いんだねクロスってヒヒッ!」
きっぱりと言い切ったアレンの目は何も信じていない目だった。暗い。
「じゃっ、このゲームジャスデビ参戦〜
オレらのウサ晴らしになってもらうぜ、弟〜子v」
べえっと舌を出し、自分の米神に銃口を突きつけたデビットが言った。
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