突然地面に浮かんだ五芒星に吸い込まれるように消えたリナリーの手を咄嗟に取ったが、引き戻すことが出来ずに自分も沈んでしまう。
『リナ、リッ』
「アンジュッ」
リナリーに伸ばした反対側の腕がアレンに掴まれる。
目の前が光に染まった。
「どわぁああああああ」
「ぐえ…っ」
「ビ…っびっくりしたである〜…」
「ちっ」
「つっ、潰れるうーっ」
上からクロウリー、神田、チャオジー、ラビ、アレン、そして私とリナリーが重なっていた。
上にいる全員をアレンがすべて支え、私とリナリーにその重みが加わらないようにしていた。
リナリーにうつ伏せでのっかってしまっている私の上にアレンが腕を立てて覆いかぶさっている形。
が、彼の腕はすでに上の重さでプルプルと震えてしまっている。首筋に彼の息がかかってこそばゆい。
「なんだこの町は」
『…あれ、ここ』
「方舟の中ですよ!!」
アレンの上に重なっていたのが退き、ようやく体を起こすことが出来た。
そして周りを見渡して驚く。
「なんでンな所にいんだよ」
「知りませんよ」
『もうケンカしないで!!』
メラ、と周りに火が見えてしまった二人をぐいっと引き離す。
「おっ、おい!?リナリーの下に変なカボチャがいるさ!!」
ラビが抱き起したリナリーの下。
どこか見覚えのあるカボチャの傘がぺったんこになっているのが発見された。
「どっどけレロクソエクソシスト!ぺっ!!」
はっと目を覚ました傘が暴言を吐きだし、ケンカをしていたアレンと神田が傘にイノセンスを突きつけた。
目までギラギラさせて。
「「お前か…」」
そんな二人に武器を向けられ、恐怖から汗をかき、かぶるぶると震えだす傘。
「スパンと逝きたくなかったらここから出せオラ」
「出口はどこですか」
「でっ出口は無いレロ“舟は先程長年の役目を終えて停止しましタvご苦労様ですレロvV出航ですエクソシスト諸君v”」
途中から傘から伯爵のあの声が聞こえてくると同時に、伯爵の形をかたどった風船がこちらに迫ってくる。
「"お前たちはこれよりこの舟と共に黄泉へと出航いたしまぁースvV"」
伯爵の声を合図に、周りの建物が音を立てて崩れていく。
揺れた地面に思わずふらつき、アレンに支えられる。
「"危ないですよv引っ越しが済んだ場所から崩壊が始まりましたvV"」
『…どういうこと…っ』
「"この舟はまもなく次元の狭間に吸収されて消滅しまスvお前たちの科学レベルで分かりやすく言うと……あと三時間。それがお前たちがこの世界に存在してられる時間でスvV
可愛いお嬢さん…良い仲間を持ちましたネェvこんなにいっぱい来てくれテ…みんながキミと一緒にいってくれるカラ、寂しくありませんねvV"」
伯爵が話している間にも、周りの建物はどんどん崩れ崩壊していく。
リナリーがラビに支えながらも立ち、伯爵の形をした風船が空へと飛んでいくのを睨みつける。
「"大丈夫v誰も悲しい思いをしないよう、キミのいなくなった世界の者達の涙も止めてあげますからネvV
迷い込んでしまった愛しい我らの歌姫…今迎えに行きますからネvV"」
ぞわ、と身体に何かが走った。
***
「どこかに外に通じる家があるハズですよ!僕らそれで来たんですからっ」
「ってもう何軒壊してんさ!!」
「無理レロ!この舟は停止したレロ。もう他空間へは通じてないレロって!!マジで出口なんて無…」
『うるっさい!黙ってて!!』
鬱陶しいぐらいに話す傘、レロをアレン、ラビ、神田そして私の四人が同時に殴り黙らせる。
「危ないっ」
リナリーの声に、崩れて浮き上がる地面にガクッと体制が崩れる。
『…いッ』
急に歪んだ足元に、ぐき、と嫌な音がした。
「……っ」
「無いレロ…ホントに」
どんどんと周りが崩れていくのを痛感し、頭の中に最悪の状況が浮き上がり慌てて振り払うように頭を振る。
「この舟からは出られない。お前らはここで死ぬんだレロ」
「あるよ。出口、だけならね」
ぬ、とアレンの背後から、聞き覚えのある声と小さなカギを持った手が現れた。
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