バクによって開かれた壁を超えると、フォーの叫び声がまず耳に届いた。
そして視界に入ったのはフォーを苦しめる原因、アクマの姿。
アレンが真っ先に飛び出し、アクマの背中へと飛び乗る。
突然現れたアレンにアクマが後ろを振り返り目を見開く。
そして触れられている部分が弾け、アクマは咄嗟に腕を払い、アレンを遠ざける。
アレンは驚いた様子もなく、近くの瓦礫に着地する。
すう、と息を吸い、イノセンスを発動させる。
手に感じるその存在を握りしめた。
それを構え、前に立つアクマを睨みつける。
「……何なんだい、お前?」
「エクソシストです」『エクソシストよ』
アクマの足元、倒れるフォーが、声を振り絞り、私たちの名前を呼ぶ。
そして、力が切れたのか、アレンの姿をとっていたフォーが元の姿へと戻る。
それをみたアクマがフォーを踏みつけながら「そういうことねェ」と呟いた。
『フォー、バクさんが泣いてたよ』
笑いかけながら言うと、一筋、フォーの頬に涙が流れた。
「で、お前らは強いワケ?」
「そうだよ」
間をあけて、アレンがいった。
きっとアクマに内蔵された魂に返した言葉なのだろう。
「ダークマターに分解されかかってる奴が笑わせるよ!!」
ダン、と距離を縮めてきたアクマに構えたイノセンスを振るう。
アクマの腕に生えた刃と、私の持つ双剣が金属音を放ち、弾かれあう。
視界の端でバクがフォーに駆け寄りその小さな身体を抱き寄せているのが見えた。
すぅ、と感覚が消えた。
「アンジュ!!」
手に持っていた武器が突然消え、アクマによって吹き飛ばされる。
咄嗟に受け身を取ったが、衝撃で足元から崩れていくのを感じた。
次いでアレンがアクマの攻撃を避け、柱に着地したときに彼の体にもひびが入っていくのを見てしまった。
「バカだね、そんな体で戦おうなんて」
アクマの攻撃がアレンの体を貫き、水に沈める。
伸ばされた右腕がぼろぼろと崩れていく。
『アレン―――!!』
「……っ!!やめんか貴様ぁー!!」
バクが手をかざし、傍にあった瓦礫が彼に反応し、アクマへと伸びていく。
が、アクマはそれを片手でいなすと、糸でバクの体を貫く。
「バァーカ!こんなものがアクマに効くワケないだろ」
「バクっ」
彼の腕の中にいるフォーが名前を呼んだとき、彼女にも糸が突き刺さった。
脚を必死にうごかし、二人の元に駆け寄り、二人を貫く糸を断ち切る。
『…んぐぅ』
守りたいものが、あるから…
たくさんあるから、守りたいと思って戦うの。
『――イノセンス』
「イノセンスよ…」
突然、私の前に手の形をした何かが伸びた。
それにほっと息を吐く。
――でも、私はまだ強くないから。
「 左はアクマの為に 」
自分を守るために精一杯で、
「 右は人間の為に 」
大切な人たちの背中を必死に追いかけるのに必死で
「 どちらも僕で 」
でも、もし。もしもその人たちと肩を並べて、背中を預けあって戦うことができるのなら
「 どちらも大切… 」
――お願い、神様。他には何もいらないから、
「 だからお前に応えよう 」
私に、みんなと、大切な人たちと、一緒に戦えるだけの力を…
願わくば、大切な人たちを守れるだけの力を、
『 私に頂戴 』
「 人間とアクマを救済せよ 」
力をくれたなら、戦って見せるから、
大切なひとたちを守るために、
凡てが終わる、その日まで。
手の中に戻ってくる確かな存在。銀色に輝く柄を握りしめる。
そして私を包む純白の羽衣。
目の前に銀色の仮面と純白のマントが広がった。
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