「白髪、奇怪な左眼。お前がアレン・ウォーカーだね?」
黒いものから出てきたアクマが左手に見たことの或る蝶を乗せながら言った。
「わ――ーっ!?フォーさんの内からなんか出てきたぁ――!!!」
「たぶん…アクマじゃないかな」
「バカ!どう見てもアクマだろっ」
口々に言葉を出す化学班三人を後ろに、アレンと二人、立ち上がりアクマを見上げる。
「でも支部は結界で百年守られてきた場所だぞ!?こんなあっさり破られるなんて――ー!?大体どうしてウォーカーたちが此処にいることがバレたんだよ!?」
あの蝶だ。
と感じた。あれはあの夜ティキ・ミック、ノアが所持していたゴーレムだ。
「逃げ…ろ…こいつはお前らを殺しに来たんだ、今のお前らじゃ勝ち目はねェ…逃げるんだ…」
「そんなこと…っ!!」
『できるわけ、』
「そんなことはさせないよ」
つぎの瞬間、アクマの腕から伸びる一閃がアレンの胸を貫いた。
彼の名前を叫んで腕を伸ばしたとき、私の体もそれに貫かれた。
「ウォーカー!!」
「アンジュさん!!」
貫かれた衝撃で、体重が後ろへと傾き、柵から堕ちる直前でアレンが李桂に、私が蝋花の二人に支えられる。
「私のダークマターは物質分解能力。その糸があらゆる物質の構造を分子まで分解・吸収して存在を消滅させるよ」
アクマがご丁寧に説明を加えた後、身体に大きな痛みが走る。
「うああ、ああ、わぁあああああ」
『きゃぁあああああああ』
「ノア様には歌姫は生きて連れて帰れと言われているが、お前は生きたまま連れてこいとは言われてないのでね…。分子になったお前と、動けなくした歌姫を連れて行くよ」
「クソ…この糸切れねぇ!!どうしたら…」
「やだ…消えちゃやだ――ー!!」
痛みに悶え苦しむ二人の体が次第に薄く、消えていく。
それを見た蝋花が大きな目いっぱいに涙をためて泣き叫ぶ。
「 封神召喚 」
突然聞こえたバクの声。
彼は自分の手を刃物で傷つけると唱える。
それに共鳴したように、建物のすべての柱に浮かび上がる文様。そこから放たれた光がアクマを襲った。
「しっ支部長ぉ――v」
「フォー今のうちだ!!」
「遅せぇよ!!バカバク」
体に大きな穴をあけ、汗を浮かべるフォーによってアクマの糸が斬られる。
「やった糸が切れた!!」
「早くこっちへ!今の攻撃程度じゃ数秒動きを止めるくらいしかできん!」
繰り返される光による攻撃。
支部内に大きくアナウンスが響く。
≪緊急事態発生アクマ支部内に侵入!!場所は北地区中心部、繰り返す――≫
鳴り響くアナウンスの声に、支部内にいる人々が一斉に走り慌てふためく。
「まじでやべぇぞこりゃ!どうするんすかバク支部長っ」
先程の用水路から逃げてきて、改めて支部内の最悪の状況に李桂が声を荒げる。
ぐったりとして動けないアレンを李桂が。私をシィフが背中に負ぶってバクの言う場所へと走る。
「それに、ウォーカーも、アズナヴールも色素が薄いままっスよ!」
「かなり分解されたようだな、くそ!衝撃を与えないよう注意するんだ。今の二人の体は個々の物質の構造がゆるくなっている。おそらく些細な衝撃でも彼らは…
分子レベルに崩壊するぞ!」
バクの言葉に李桂とシィフが顔を真っ青にし、その二人に蝋花が気をつけてね!と念を押す。
「バク様!」
一斉に走る人ごみから一人、こちらへ向かって走ってくるウォン。
「北地区の支部員はすべてこちらに避難しました」
「そうか、よし!例のものは?」
「準備ととのっております」
「フォー、フォー頼む!お前が頼りだ」
「はっ…わかってらぁバク…」
息を乱し、バクが背負っていたフォーを降ろし、一人一歩先へ行く。
「し、支部長何する気っスか!?」
「この通路を塞いで奴のいる北地区を隔離する!」
突然突拍子もないことを言ったバクに化学班三人が驚きの声を表す。
「曾じじの血を引くボクらチャン家はこの支部の守り神の力を操作できるのだ」
手の平を傷つけ血で濡れるその手をかざし、召喚と唱えると、地面、壁、天井から岩石が生え、道を塞いでいく。
「フォー!」
バクがフォーの名前を呼ぶと彼女はふらふらとした足取りで背負われているアレンの前へと立、す、と左手でアレンの頭を撫でる。
ずっと目を閉じていたアレンがそろ、と目を開ける。
「ウォーカー。しっかりしろよ、アンジュのこと守るんだろ。お前見た目より全然根性あるから大丈夫だよ」
ヴン、と音を立て、フォーの姿がアレンを写し取る。
「きっと発動できらぁ。がんばんな」
お前もな、アンジュ。と言われ、アレンの姿をしたフォーが笑う。
「フォ…っ何…を…!?」
「エクソシストじゃない一介の守り神じゃあいつは倒せねぇだろうけど、なんとか時間稼ぐから逃げろよ!」
『そんなっ、フォー…!』
目を閉じ、笑ったフォーは、後ろに飛び、塞ぎかけている扉の向こうへと消えていく。
「バクさんやめさせて下さい、僕らがいきます!僕が行くからフォー!!」
必死に叫ぶアレンにフォーは依然として微笑んだまま、壁の向こうへと行ってしまった。
バクによって壁は完全に閉ざされてしまった。
李桂の背中から降りたアレンが彼に抑えられながら必死に壁の向こうを見た。
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