灰色歌姫 | ナノ


  








フォーの流れるような攻撃を紙一重で躱すアレン。
防戦一方が此処数時間続いていた。

容赦なく繰り広げられる攻撃にアレンが態勢を崩したのを見逃すはずなく、フォーが腹に鋭い蹴りを見舞う。

そのまま数メートル飛ばされたアレンのもとに勢いをつけて飛び、武器化された腕を彼に振るう。
寸のところでアレンが左腕を発動させ、受け止めたと思ったのもつかの間、

集まっていたイノセンスが再び粒子へと戻ってしまい、フォーの斬撃を受け止めていたそれがなくなり、勢いを失くさずにフォーの刃が通ってしまう。



『…あっ』




遠くから見ていた私にはアレンの首が斬られてしまったように見えた。
アレン自身もそうだったのかおそるおそる、といった風に首に手を添える。


「あれ…?くっつい…てる?」
「ふぁぁ――っ」



首がくっついてることに安堵したアレンが後ろを振り返る。


「悪い、眠くて実体化できなくなってきた」



あくびをしたせいか、目に涙を少し浮かべるフォーの姿は砂嵐がかかったように消え始めていた。
もう訓練も終わるだろうと思い、走ってアレンのそばに駆け寄る。


「十数時間はやってたし、ここらで一時眠ろうぜ。あたしが起きたら再開な」


息を切らしながらフォーを見つめるアレンの首を覗き込み、全く傷がついていないのを確認してようやく安心した。
二回目のあくびをしながらフォーは壁の中へと消えてしまった。


これ、もしフォーが眠くなかったらアレンの首、落ちてたんじゃ…


と少しフォーに襲った眠気に感謝する。
と、隣に立っていたアレンがぐにょ、と倒れてしまった。
慌てて倒れてきたアレンを支える。



「ウォーカーさん!」

「あっ、バカ蝋花!!」




急に現れた化学班三人衆に目をむく。
何時からいたんだろう。ここは立ち入り禁止の筈なのに。


「ゴラーー!!」


そばを飛んでいたゴーレムからバクの怒鳴り声が鳴る。


「貴様ら!!そこは立ち入り禁止だと言っただろうが!!何してる!!」

「す、すんませーん」

「もういい!ついでだからアンジュを手伝ってウォーカーをベッドまで運べ!罰として暫く資料庫の掃除だからな!!」



やはりバクの許可なしに入ってきてしまったのかこの人たち、と目を向ける。



『…どうしてここに?』

「あー…」




問いかけると李桂が顔を赤くさせ、次に気まずそうに眼を逸らし、蝋花を見る。


『…ふぅん』


なんとなく察した。
初めて会ったときになんかそんな気がしたから。

ちょっとだけ気分が悪くなる。

腕の中で眠るアレンを見下ろす。

――ーなんか自分が嫌な女みたいだ。











 


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