! ちょっとグロいかも
雰囲気のため改行とかなし










いつまでたっても彼女はお風呂から出てはこなかった。彼女がお風呂に入る前からめくっていた雑誌は全て既読済み。それどころか、二度読み返したものだから雑誌の端っこに、握ったときにできる特有のしわがくっきりと姿を表わしていた。何だよもう、これから二人で×しあう予定だったのに。そんなことを胸の中で呟きながらお風呂場の扉を開く。視界は真っ赤になり、嗅覚は血の匂いを捉え、脳は真っ白になった。けれど、それも一瞬のこと。「裏切り者――」小さく呟いて、しっかりと彼女を見る。彼女は浴槽に埋もれ、真っ赤に染まった左手だけがぶらりと外に出ている。浴槽の中のお湯は最早冷たく、赤かった。浴槽を覗き込むと、彼女から漏れる血の匂いがいっそうと強くなり反射的に本能的に顔を顰める。だらり、と浴槽に沈む彼女の右手にはいつ持ち出したのか僕の愛用のメスが握られていた。お湯が冷たい水に変わっていることを意に介さず、自分の服が真っ赤に染まり血の匂いが染み付くことを気にせず、僕も浴槽へと体を沈めた。そうすれば、彼女と一つになれる気がしたのだ。だって、浴槽の中には彼女の血がたっぷりと入っていて、まるで彼女の体内のようではないか。もっと的確に言うなれば、そこは誰もが知っている胎盤という家ではないだろうか。目を閉じると何だか優しくて懐かしくて。そっと彼女を抱きしめた。冷たく血の気の無い顔。動かない体躯。ああ、こんなことになるのならば、彼女に一服盛ればよかった。僕だけしか見えなくなる素晴らしい精神安定剤を。悔やんでも意味が無いし、第一僕が本当に悔やんでいるのかも分からない。だから、今は衝動のままに動いた。彼女の冷たく紫色の唇に、そっと自分のそれを重ね合わせ、死んでいる彼女からそれでも生気を奪い取るように貪った。ごちそうさま。



そして僕は彼女に別れの挨拶を。さようなら、母さん。


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