けれど、決まって私は逃げたのにも関わらず、あの人の顔が頭から離れずふらりと戻ってしまう。
"アイツ"はいつも寂しそうに私を叱るのだ。そう、さっきの彼と同じような目をして。
「 っ」
ほら今だって"アイツ"が寂しそうに私を叱って、その後ろから彼が冷めた視線を私に向けている。"アイツ"のお説教はいつも同じで聞き飽きた。
今の私には、それはもう空白と同じようなものだった。
それよりも、彼の冷たい視線が私はいつも怖かった。あの人がつける鬱血痕よりも何十倍も怖かった。
浮かんでくるのはあの人の顔。
けれど、思い出す温もりは、あの人のものでもなく優しく私を抱きしめる"アイツ"の体温でもなくて、冷たい視線を私に向けながら私の腕を掴み私を引っ張りあげる彼の手のひらの体温だった。
ほらだって、彼の冷たい視線が怖い。けれど、少し体が熱くなるのも事実。
きっと無能な神様はそんな私を嘲笑っているのだ。
矛盾した体温
(2010.07.19 おわり)
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