「別に。死のうだなんて考えてないから安心して」

 私が裸体でいることに対してこの男はなんとも思わないのだろうか。
 そんな疑問は愚問だということを私ははっきりと自覚している。だって彼は同性愛者、だから。大切な人がいるから。

「それならいい。もうすぐアイツが来るってさ。さっさと体を拭いて服を着ていろ」
「……服ないけど?」
「そこに自分で脱いだものがあるだろう? それを着れば問題ないだろ」

 彼はそう素っ気無く言うと出て行った。"アイツ"と言ったときの彼の寂しそうな目が脳裏に焼きついて離れなかった。






 ゆっくりと体を拭き、脱ぎ散らかした服のしわを撫でながら着服しているとバンッと扉を叩きつける音がした。ドタドタと荒い足音。

「…………っ」

 ノックも無しに入ってきた、彼の言葉を借りるなら"アイツ"は入って来るなり挨拶もなしに私を力一杯抱きしめた。ぎゅーっ。痛いってば。
 お湯に沈んでいないのに、酸素が薄れていく感覚。あ、苦しいかも。

「おい。その辺にしておけよ」

 さっきとは違う柔らかい声音の彼。その声に、私を抱きしめる"アイツ"の体躯はビクリと体を揺らしおずおずと私を手放した。温もりが、消える。

 いつもそうだ。私があの人から逃げ出し、彼に保護され"アイツ"が私を抱きしめる。もっとも。彼は私を好きで保護しているのではなく、"アイツ"に頼まれたのだという。あの人の家から一番近いから、それが理由。そう前に零していた。



(2010.07.19)

 




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