ハリーがあたしを愛するかわりにあたしの大事な中身を舐めたいって。だから、あたしはハリーに愛してもらうために、ただそれだけのために、生まれて初めて崖っぷちに立ってみた。下を向くと黒い海がゆらゆらゆら。上を向くと、何もなかった。夜の曇り空はハリーがあたしに向ける眼のように何もなくて冷たい。
ハリーが「お前、落ちるときに俺がお前の中身を舐めれるようにきれいに落ちろよ」って、あたしに背を向けて言うから、あたしは何がなんでもこの身体をきれいに黒い海へと届けなければならないのだ。そのためには、でこぼこでっぱる岩とかにぶつかって粉々になってしまうのを何が何でも避けてなければいけない。だから、あたしは助走をいっぱいつけて大きく空へとスキップした。
ハリー、ハリー、
堕ちるときにはすこし後悔した。あたし、このままじゃあハリーがあたしを愛してくれるところを見れやしないじゃない。ここにくる前に、崖っぷちに立つ前に、堕ちる前に、ハリーの唇に一度でもちゅーしておけばよかった。ハリーの味をあたしも味わいたかった。ハリーの愛はあたしの命ひとつぶん。
あれ、ハリーはあたしをここに置いて車でトーキョーに帰ってしまった。あれ、ハリーはあたしをどうやって愛するのだろう。あれ、ハリーは暗い海の中、どうやってあたしを、。ハリー、ハリー、
ハリーの瞳を思い出した。
ハリーはあたしを愛すじゃなくてあたしじゃなくてその隣りの金髪を金髪を碧眼をあたしじゃない黒髪黒目じゃないハリー、ねえ、ハリー?
(飲まれて、消えた)
(110627)
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