新しい彼のところで暮らすのだ。そう言って一緒に住んでいた家を出た。もともと自分の荷物なんてものは少なかったし、家具は全て彼が揃えてくれたものだ。家を出るときのわたしの手には、少し大きめのボストンバックだけだった。

 中には数枚のお洋服と洗面道具一式。財布や定期などといった必要最低限のものしか入れなかった。少し前まで宝物だったアルバムと家の鍵は捨てることなんてできなくて、そっと置いてきた。


 けれど、実際新しい彼なんてその場の嘘で。つまりは行く当てなんてない。

 これからどうしよう。

 公園のベンチに座ってどんよりとした曇り空を見上げた。そうしていると、じわりと涙が浮かぶ。彼の前では決して出せなかった本心と涙。

 本当はずっとずっと彼の傍にいたかった。彼の隣で彼と笑い合っていたかった。彼の一番でいたかった。ずっとずっと――

 全てがもう叶わない願いだとどこか冷めた私が言う。その現実はとても悲しくて、痛くて、私はみっともなく声をあげて泣いた。




 ずっとずっと大好きでした。どうか新しい彼女とお幸せに。



(101203)




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