半年が過ぎた。
 季節はもう初夏で、けれどわたしはいつも冬の空を追いかけていた。

 柚木さんの家から涙を零しながら帰ったあの日。わたしは柚木さんとの日常はもちろん、柚木さん自身のことをとても好きになっていたことに気がついた。
 失ってから初めて気付く大切なもの。なんて、皮肉なんだろう。あれから、一度も柚木さんは帰ってきていない。

 今日はとても暑い日だった。高い気温と湿度のダブル攻撃。流れる汗は乾くことを忘れて、馬鹿みたいにわたしの肌を濡らす。
 そんな暑さとは対照的な、涼しげな色をした封筒が家のポストに入っていた。宛先は、わたし。そして、

「柚木さん……っ!?」

 送り主は柚木さんだった。どうしてわたしの住所を知っているのだろう。どうして今になってわたしに手紙をくれたのだろう。
 巡る思いを胸にかかえて、わたしは封筒を開けた。そこには、一枚のチケットと柚木さん直筆の短いお手紙。挨拶は何もなく、事務的なお手紙。
 ――今度、絵画展があります。良ければ見に来てください。 柚木


 チケットを見せて、絵画展に入った。
 それはコンクールに出品された作品のようだった。絵の隣に、佳作、会長賞、などの札がついていた。柚木さんの作品は何処だろう。柚木さんの優しい世界を見たかった。
 そして、見つけた。それはわたしがモデルの絵で、柚木さんの世界で呼吸をしているわたしはやっぱり優しかった。最優秀作品。柚木さんの世界はやっぱり評価されていた。

 流れそうになった涙をこらえていると、肩に重さが加わった。わたしは、振り向かなかった。振り向けなかった。ただ、ただ聞きたかった。
 携帯電話のメール作成画面に声を打つ手が震える、わたしの声が震える。

「どうして」

 たったそれだけ。わたしが聞きたかったのは、たったそれだけ。

「突然いなくなってごめん。僕は、ゆかちゃんの絵で最優秀賞を取りたかった。そして、取るまで君に会う資格はないと自分に言い聞かせた」

「ゆかちゃん、僕は君が好きだ。だから、僕は君に君がいかに綺麗で優しい色をしているのか伝えたかったんだ」


 振り向いて見た柚木さんの笑顔と言葉は、柚木さんの世界と同じくらいに優しかった。


世界と声




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テーマ「人外ファンタジー」
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