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戦いに身を投じた者がこんなことを気にするなんて今更でしょう。
心の中で自分自身にそう言い聞かせながら、しかし名前はガラスに映った自分の姿を見て思わず溜息を吐きそうになったのを止めることができなかった。
「……はあ…。」
確かにいちいち身なりに気を遣っていられないのは事実だが、かと言って綺麗な洋服に憧れがないわけではないし、すれ違う女性を見て劣等感を抱かないわけでもない。そのうえ今回の買い出し当番にと選出されたのが名前とシャムロックだったものだから、名前は余計に周囲との差を意識せずにはいられなかった。
行き交う女性たちの綺麗に結い上げられた髪と、手入れの行き届いていない自分の髪。傷ひとつないゆで卵のような肌と、生傷だらけの自分の肌。ショーケースの向こう側にあるふわふわのドレスまでもがガラスに映る自分の姿を嘲笑っているかのようだ。
これが溜息を吐かずにいられるものか。
「どうかしたかい?」
思わず名前から深い溜息が零れると、隣を歩いていたシャムロックが不思議そうな顔で名前の方を向いた。それに気づいて名前もちらりとシャムロックを見上げたが、彼女はすぐに頭を横に振ってみせた。
「ううん、なんでもないの。…ただ、」
「ただ?」
「シャムロックだってもっと綺麗な女の子が好きでしょう?」
「え?」
再び名前が仰々しく溜息を吐きながら言った言葉にシャムロックの歩みが止まる。彼のぽかんとした表情が名前を向いた。
だが、短くううんと唸ったあとで不意に何か思い立ったかのように彼が名前の手をとったものだから、今度は名前が驚きの眼差しでシャムロックを見上げる番だった。
手だってそうだ。私の手は綺麗じゃない。まめだらけだし、傷だらけだし、がさがさで、ぼろぼろだ。
それでも、
「私は、名前のことが好きだよ。」
そう言ってくしゃりと笑う彼に涙が出そうになった。
趣味が悪くて大変よろしい
(ひとりの騎士が選んだのは傷だらけの掌でした。)