「今年はゆっくりアルサックの花を見に行く暇もありませんでしたねえ。」

幹の傍に立って上を見上げると、そこにある頭上を覆う枝葉は深い緑色に染まっていた。もっと早い時期にここに来られていたならばきっと今頭上に広がっていたのはアルサックの花の綺麗なピンク色に違いなかったのだろうが。今年は忙しくてアルサックが咲いていることも気に留まらないくらいだった。

「また来年、だな。」

ぽつりと零したルヴァイドに名前は背後を振り向いた。忙殺されそうになっている彼を、たまには気分転換しましょう、と言ってここまで連れ出してきたのは名前だった。

すでに花が散ってしまっていたのは残念だが、最初は渋っていた彼の口からそのような台詞が聞けたというだけでも来たかいがあったのかもしれない。柔らかい微笑みを浮かべたルヴァイドに名前は満足そうに微笑んだ。

「そうですね。来年は、必ず。また一緒に来てくださいますか?」

「ああ。」

短く答えたルヴァイドを見て名前が再びにこりと微笑む。

花が咲く時期は一瞬だが、私たちは毎年それが繰り返されることを疑わない。それから彼の答えの中に、来年も二人がここにいることに疑いがないのだという期待を込めて。


淡い夢のなかに置き去りにした記憶


(来年も、また。)