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青く澄み渡った空。
その蒼穹に映える、白亜の浮雲。
ヒラヒラと舞い上がる淡い桃色の花弁は、まるで季節外れの牡丹雪。


「―――へぇ・・・」
「どう?」
「・・・うん、すごい・・・」


お兄ちゃんの笑みに、私は唖然としながら頷く事しか出来なかった。
大空に広く伸ばされた枝には、満開の桜が咲き誇っていた。薄いピンク色の小さい花びらが、風が吹くたびにゆらゆらと舞い落ちる。そんな素晴らしい桜の木が、一面に見える。右を見ても左を見ても、前も後ろも綺麗な桜。風が生まれると、それこそ桜吹雪に包まれて幻想的な空間を作り出す。
とても静かな場所、聞こえるのは風の音と、その風に震える桜の音と、小鳥の鳴き声。本当に、この桜並木一体を完全に貸し切っている様で、ご町内の皆様に申し訳なかった。
けれど、―――こんなステキな風景を見れたのなら、本当に申し訳無いけれど、お兄ちゃんに心から感謝した。


「・・・?」


そんな時、誰かの声を聞いた気がして辺りを軽く見回した。「澪?」と不思議そうに首を傾げるお兄ちゃんにその旨を伝えると、顔を顰めて私と同じく辺りを見回して。
同時、また声が聞こえた。今度ははっきりと。


「るせ」
「はがっ!」
「獄寺君!!」



誰かの名前を焦った様に呼んだその声に、お兄ちゃんはある一点を見詰めてすっと目を細めた。
無言でそっちに歩いていくお兄ちゃんの後を付いていく。大体予想はつく。多分お兄ちゃんもそうだろう。―――風紀委員の一人が、誰か一般人の侵入を許してしまったのだ。


(でも、風紀委員の人は、喧嘩は強いって・・・)


そう言った本人であるお兄ちゃんをチラリと見上げると、何故か楽しそうに口角を吊り上げている。風紀委員を倒した、イコール強い人間。それなりに思い当たる人物が居るのだろうか、お兄ちゃんは『その人たち』が遠くの方に見えた途端、嬉しそうに笑った。
―――勿論、それは冷笑の部類のもので。


「お兄ちゃん・・・」
「澪は下がってて。絶対喧嘩になるから」
「・・・決定済み?」
「―――そうだね・・・。今まで何度か彼らと顔を合わせてるけど・・・少なくとも、僕がトンファー取り出さなかった日は無かったと思うよ」


楽しそうに言ったお兄ちゃんの視線の先に居たのは、三人の少年。と、彼らの足元に倒れ臥す風紀委員の人。
少年三名のうち、一人目は黒い短髪を持つ背の高い少年、二人目は煙草を咥えた銀髪の少年、三人目は栗色の髪の小柄な少年。前者二名は容姿端麗、けれど最後の一人はどこか冴えない出で立ち。でも、小柄な彼は―――彼以外の人間は持つ事さえ許されない、特別な強さを秘めているのが何と無く判る。


「なにやら騒がしいと思えば―――やっぱり君たちか・・・」


お兄ちゃんの声に、風紀委員を見下ろしていた三人が顔を上げた。お兄ちゃんの姿を見て、茶髪の子が驚きに目を見開いて叫んだ。


「ヒバリさん!! ―――・・・、・・・と?」


お兄ちゃんを厳しい表情で叫んだ彼だけれど、お兄ちゃんの斜め後ろに佇む私を見て、今度はきょとんと目を瞬かせた。彼の後ろに居る二人も同様に、私とお兄ちゃんを見比べている。
・・・他人にじろじろ見られるのは、勿論いい気分じゃない。だから私も彼らを観察する事にした。ただじっと見詰めるだけだけれども。


「―――・・・い、妹、さん?」
「妹?」


茶髪の子の呟きに、黒髪の子が驚きを交えて復唱する。銀髪の少年も驚いた様に茶髪の子を見て、その後でまた私とお兄ちゃんを見比べた。
お兄ちゃんも少し驚いたみたいで、纏う空気がちょっとだけ変わる。それはそうだろう、今まで私たち二人が並んだ姿を見て、一発で兄妹だと言い当てた人は極僅かだったから。


(凄い、判った・・・)


私たちは、確かに実の兄妹だけれど、それぞれの顔のパーツは似てなかった。
お兄ちゃんは切れ長の釣り目、私は少し目尻が下がっている。いつも眠そうだね、とお兄ちゃんに言われた事があるほど。
口元は、お兄ちゃんは少し猫口気味で、本人が無表情のつもりでも軽く笑っている様に見える。けど、私は終始無表情に見えるらしい。だからこそ更に眠そうに見えるって事もお兄ちゃんに言われた。
似てる所と言えば、髪質。二人揃って髪が細くて、少しだけ曲毛で、柔らかい。
肌はどちらかと言うと白い方。
あとは―――周りからは、どっちも美形だって言われている。


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