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―――救急車は呼んであげたから、それまで頑張って這い蹲ってなよ。
そう言い残し、機嫌よさそうに小学校の応接室を出て行った兄の後を追おうと、澪も静かに歩きだした。自らの血の海に沈む二人の大人を敢えて踏み付け(その際漏れた苦悶の声は聞こえなかった事にしつつ)、出入り口付近でそっと彼らを見下ろし。


「・・・本当は、お兄ちゃんに話すつもり、無かったんだ。けど―――流石にムカついたから」


静かに語る彼女の顔に浮かぶのは、何もない。
ただの、無表情。

『今は妹だけだからいいものの・・・』
『雲雀恭弥が居た時は、堪ったものじゃなかった』
『並中では、彼は風紀委員長をやっているとか』
『風紀や規律を乱す不良に、それらを語る資格など―――』

「・・・口は災いの元、って言う諺、知ってるよね」


“声”に出さず、“聲”だけに留めておけば・・・或いは、見逃してあげたのに。
続けられた小さな呟きは、果たして、倒れ伏す大人たちに聞こえたのだろうか。呻くだけで無反応なのは、雲雀に咬み殺されたから反応できないのか、それとも既に意識がないのか。そこまで考えて、在り得ない、と澪は唇を引き結ぶ。
聲は―――依然、確かに(微かに、)聞こえているのだから。
一体、どこまで醜いのか。


「・・・やっぱり、大人は嫌いだ」


浮かべるのは、冷笑すら無い人形の様な表情。それに付け加え、その声色に何の感情も見受けられない、淡々とした声。―――ただそれらが、どこか、必死に助けを求めている様に聞こえなくもない。
けれど彼女は、それだけを言うと、また前に向き直り応接室から出て行った。


「―――お兄ちゃん、待って」
「・・・遅いよ、澪」
「うん・・・ごめんなさい」


―――少女の「セカイ」は、何時も、兄だけだった。
小さい頃から傍にいてくれて、小さい頃から認めてくれて、小さい頃から・・・愛してくれた。その、たった一人の人間を。
だからこそ、少女は―――「世界」に、何も望まなかった。

・・・そんな間違った「セカイ」を、壊すのは誰?
























はじまりは、そんな卒業式。





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