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「ヒバリと初の共同戦線だな」


小さく響いたその声に、青年たちは怒りで聞こえなかったみたいだけれど、それは確かに私たちの耳には届いて。
そっと私を放したお兄ちゃんは、そのまま木々の中に一瞬だけ視線を投じた後でクッと笑った。


「・・・冗談じゃない、」


楽しそうに笑みを浮かべながらリボーン君にそう言ったお兄ちゃんは、そのまま私の手を引いた。同時、私が今まで居た所をぶんと何かが空を切る―――別に気付かなかった訳じゃないけれど、不良の一人が武器である鉄パイプを私に振り下ろした音だ。
お兄ちゃんはそのまま私を背後に隠し、ひゅ、と腕を振るう。勿論、私を狙った不良はその一撃で地に臥した。
それを気にせず、お兄ちゃんはまた口を開いて。


「―――引っ手繰った金は、僕が貰う。」
「なぁ?」
「やらん!」
「当然ッス」


その言葉に反応したのは、上から山本先輩・沢田先輩・獄寺先輩。
それらの言葉を、合図の様にして―――。

―――ドッ!!!

大乱闘が、始まった。

多分、お兄ちゃんが誰かと肩を並べて一緒に戦う、初めてのケンカ。


(―――お兄ちゃん、楽しそう・・・)


背後からでも判るのは、お兄ちゃんの漆黒に開かれた瞳孔の奥に光る、嬉々とした煌めき。
私はそのお兄ちゃんが纏う空気に小さく笑い、そっと、浴衣の袖口に手を入れた。
取り出したそれを握り締め、振るう。


「ぎゃあッ!!」


品の無い叫び声とともに、私の背後で武器を振り上げていた青年が足を押さえながら崩れ落ちた。肉を引き裂く感覚が手から伝わる。けれど私はその感覚にも慣れていて、恐怖も何も湧かなかった。
山本先輩と獄寺先輩の、驚いた様な視線を感じる。沢田先輩は一心不乱に不良たちをボコボコにしていたけれど。私はチラリと彼らを一瞥し、また前に視線を戻した。真正面で鉄バットを振り上げる青年を確認し、けれど私は微動だにせず。
バットが私に当たる寸前に弾かれ、同時に青年が吹っ飛んだ。
眼前には、見慣れた背中。


「―――珍しいね?」


静かな、けれどお兄ちゃんにしては至極楽しそうな声に小さく笑む。


「澪が、喧嘩に参加するなんて」
「・・・お兄ちゃんだけなら、別に参加しないけど―――」


もう一度袖に手を入れ、取り出し、ぴんとそれを真上に弾いて。
ぱしり、と握り締めた。


「先輩たちも参加しているし。成り行き、かな」
「・・・まぁ、いいんじゃない」


小さいナイフを、手元にちらつかせて―――ヒュッ、と振ると同時に手を離す。品の無い悲鳴が、真横から聞こえた。
その後で、両手をお互いの袖の中に入れて小型ナイフを大量に取り出し。


「けど私、そんなに動けないよ。浴衣だし」
「判ってるよ、なるべく澪が動かないで済む様にしてあげる」
「・・・守ってはくれないんだ」
「矛盾しているね。守ってほしいなら出てくるな」


お兄ちゃんの楽しそうな声が、聞こえて・・・同時、両手をぶんと振る。
悲鳴が、四方八方から上がり―――そして。
私は、お兄ちゃんに釣られて笑う。


「守らないでいい―――今日は、前に出たい気分なんだ」


これはほんの、気紛れだ。


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