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呼び覚まされる戦いの記憶。


《 06 》






林の中を歩いていって、開けたそこに見えた大勢の青年たちに―――お兄ちゃんはすぐさま、眉を吊り上げたのが判った。


「美味そうな群れだけど・・・もしかしてこいつらが引っ手繰り犯?」
「・・・うん、そうみたい・・・」
「じゃあ問答無用だね」


ひゅ、と空気を切り裂く音と同時、人肉が硬いものに殴打される、バキッ、と言う音がその場に響いた。同時にお兄ちゃんのトンファーの被害者だろう青年から短い悲鳴が漏れ、けれど彼は直ぐに地面に臥す事になる。
けれど彼が漏らした悲鳴は、その場に小さな波紋を与えるのは充分なものだった。それは勿論、その中心で沢田先輩の胸倉を掴み上げているダサい人にも効果を与えた様で。
彼らが顔を上げると同時、お兄ちゃんは口角を吊り上げて笑う。


「―――嬉しくて、身震いするよ」


お兄ちゃんは地に臥した青年を見下ろしながら、ひゅ、とトンファーを振って付着した血を払った。


「美味そうな群れを見付けたと思ったら、追跡中の引っ手繰り集団を大量捕獲・・・」
「ヒバリさん!!」


沢田先輩の驚きの声を聞き、青年たちは俄かに騒いだ。
誰だコイツは、と誰かが声を上げ、内一名がお兄ちゃんに腕に付いている風紀の腕章に目を止めたのか、並中の風紀委員だ、と叫ぶ声が聞こえる。


「(まさか・・・ヒバリさん、俺を助けに・・・!?)」
(残念、沢田先輩)


先輩が小さな聲で呟いたのが聞こえ、私は哀れを含んだ視線で彼を見た、その直後だった。
お兄ちゃんが、恒例の悪魔的な笑みを浮かべて無慈悲な言葉を吐いて捨てた。


「集金の手間が省けるよ。君たちが引っ手繰ってくれた金は、風紀が全部頂く」
「あぁ!?」
「(またあの人自分の事ばかり―――ッ!!)」


お兄ちゃんの言葉にキッと睨み付けた青年一名―――何故か頬にガーゼが付いているが、それには敢えて突っ込まない。それよりも沢田先輩が希望を絶望に変換させて、顔を青褪めさせながらそう胸中で突っ込んだ。


「むかつくアホがもう一人―――いや、」


私は、私の背後からの聲を拾って小さく顔を上げた。


「二人、か?」


ガーゼがついた青年が、どん、と沢田先輩を突き飛ばしながら私を見てニタリと笑った。
同時、それが合図の様にして私の後ろに居た青年が、私の手首を掴もうと手を伸ばし―――けれど私はそれをそっと交わして、勢いのあまりつんのめってきた彼の顔面に裏拳を入れる。


「ふが・・・ッ!?」
「な!?」


思い切り入れたからか、ゴキンと言う小気味いい音を立てて減り込んだ拳を外すと、ただでさえ直視できない顔が更に不細工になっていた。勿論鼻血も垂れているそれに私は顔を歪め、ふらりとよろめいてから地面に膝を付いた彼の首筋に、思い切り手刀を入れる。
気絶した彼を踏み付けて乗り越え、私はお兄ちゃんの傍に駆け寄った。
お兄ちゃんは咎める様に、私の名を呼ぶ。


「・・・澪・・・(離れるな、って言ったでしょ)」
「・・・ごめんなさい」
「―――面白かったからいいけどね」


少し俯きながら謝ると、クッ、と咽喉の奥で笑いながら小さく面白そうにそう返された。


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