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「澪に下品なもの見せた罪は重いよ、変態露出狂共」
「流石ヒバリだな」
私の後ろからリボーン君が絶賛して、同時に刑が執行される。
あーあ、と私はもう一度溜め息を付いた。既に慢心喪失な人を相手に、どうしてお兄ちゃんは楽しそうに笑っていられるのか。抵抗する事も逃げることも無い相手に、何でそんな面白そうに。
―――私は、少しだけ顔を顰め、額を押さえた。
「・・・澪、伏せろ」
「え?」
リボーン君の声に後ろを振り向くと、リボーン君が私の肩に飛び乗ろうとしている、らしい所だった。
思わず手を伸ばして彼を受け止め、けれど思いの他彼の飛び乗る勢いが強くて、更に突然の事で確り受け止められなかった私は反動でそのまま身体が傾いていく。
それと同時、だった。
ズガンッ!!
銃声が響き、私の耳元を何かが凄い勢いで通り過ぎていく。じん、と耳の先の方に痛みが走った。完全に地面に座り込んだ後に耳に触れると、血は出ていない代わりに薄皮が剥けているのが判る。
「―――、・・・澪!?」
呆然としていたお兄ちゃんが、けれど一拍後、すぐに駆け寄ってきてくれた。焦った様なその声に反応し、私は少しだけ顔を上げてお兄ちゃんの方を見る。その後でリボーン君は無事か確認すると、膝の上に居たリボーン君は無傷で、じ、と少し離れたところの地面を見詰めていた。
彼の視線を追うと、地面に小さい穴が開いていて、そこから僅かに硝煙が湧き立っている。
ふ、と息を呑んだ。リボーン君があと少し、私に飛び掛る(?)のが遅かったら、私もあの銃弾で頭を撃たれていたことだろう。
例えばそれが、沢田先輩たちを襲ったのと同じ、死なない銃弾だとしても、下着で復活するのだとしたら寧ろ死んだ方がマシだけれど。
色んな意味で恐怖し、私は小さく震えた。
「澪? 澪、大丈夫?」
「・・・お、にぃ・・・ちゃ・・・」
「うん、怪我は?」
「―――・・・」
震えながら、でも首を小さく横に振ると、安心した様に小さく溜め息を付いて頭を撫でられた。大丈夫、そう直接伝わってきて、それだけで震えは大分治まった。まだ少しカタカタと震えるけれど、この程度なら大丈夫だろう。
ふわりと肩に何かをかけられた気がして、私は俯かせていた顔を少し上げる。お兄ちゃんがいつも肩にかけている学ランが私の肩に掛かっているのが目に入って、驚いて私はそのままお兄ちゃんを見上げた。
「澪、本当に大丈夫かい?」
「うん、」
「本当に?」
「うん、大丈夫」
「嘘付いてないよね」
「付いてないよ」
「無理もしてない?」
「うん」
確認の為の質問に、私は根気強く頷き返し続けて―――その質問が終わると、お兄ちゃんはあからさまにホッと息を付き、顔を緩めた。
同時―――学ランごと、ぎゅう、と抱き締められる。
「・・・よかった」
お兄ちゃんの安心感が、肌を直接伝わって私の中に入ってくる。少し深呼吸すると、体の震えは完全に消え、精神状態もかなり安定してきたのが自分でも判った。
―――やっぱり、お兄ちゃんはすごいなぁ。
「俺を挟んでイチャつくな」
「・・・キミがそんな所に居るのが悪いんだろう」
膝の上でニヤリと笑んで、からかう様に言ってきたリボーン君に、腕を緩めたお兄ちゃんがムスッとしながら彼を見下ろして。
ぽんぽん、と私の頭を撫でる様に軽く叩き、それからスクリと立ち上がる。見上げると、お兄ちゃんは白いYシャツに黒いズボンで、いつも肩にかけているガクランが無い所為か、何処にでも居る普通の男子生徒に見えた。
「澪は応接室に行ってて。僕は澪を狙った奴を咬み殺してくるから」
「う、うん」
「赤ん坊、澪を応接室まで送って欲しいんだけど」
「別にいいぞ。マフィアは女を大事にするからな」
「そう、じゃあ宜しくね」
そう言ってリボーン君を一瞥し、お兄ちゃんは踵を返して。
―――直後。
「・・・コロす。」
真っ黒い空気を背負いながら低く低く呟かれたその声に、私は密かに狙撃者を思って十字を切った。
数分後、並盛中を中心として、町全体に中年男性の悲鳴が響き渡るだろう。
手を出したら、許さない。
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