3


こうなると、ある程度相手をボコボコにしないとお兄ちゃんは止まらない。唯一、お兄ちゃんを止められるだろう私ですらそうなのだから、何がどうなっても止める事は出来ないと思う。

『作戦変更です!』

その声は、遠回りにまた銃撃をしてくる、と言う事を言い表していた。焦った様な聲色の向こうに、けれど何かある様な含みを感じる。
お兄ちゃんに銃撃をするのが当初の作戦だったとしたら、それを変更した事で最低でもお兄ちゃんには銃を向けない事が判ってホッとしている。
同時。


「! ロンシャン!?」


ズガン、と言う音と同時に男子生徒の頭に風穴が開いた。どさり、と倒れる隣で沢田先輩が目を丸くして叫ぶ。私は驚いてその死体を見て―――けれど、直後に胸部から腹部にかけて現れたジッパーに、目を点にした。
お兄ちゃんは隣で不思議そうに見下ろしていただけだけど(いつも思うけど、何でそんなリアクション薄いの。お兄ちゃんて隠れ天然だよね)。
そのジッパーが小さい音を立てて内側から開かれる。人間の形をした寝袋から人が出てくるみたいなイメージだ。中に入っている人は、その男子生徒だった。何だか脱皮しているみたいで気持ち悪い。


「もうお先真っ黒コゲ・・・過去も真っ黒コゲ・・・」


更に気持ち悪い事に、その男子生徒はトランクス一枚の他は全裸の状態だったから最悪だ。私は顔を引き攣らせて一歩下がり、少し顔を青褪めさせて顔ごと視線を逸らした。と言うかそれ以前に頭銃で撃ち抜かれて死なない人間なんて居る筈が無いんじゃ?
「(嘆いて許しを請うつもりだな)」、ぼそぼそと呟く男子生徒を白い眼で見下ろして胸中で呟いた沢田先輩は、けれど次の瞬間に「ねぇ、」と言うお兄ちゃんの低い声を聞いてピキッと身を竦ませる。


「澪に卑猥なもの見せないでくれる」
「ッ!!!」


ばっ、と焦った様に沢田先輩がこっちを見たのが判る。
その後で数秒固まり、また凄まじい速さで彼は男子生徒に叫んだ。


「ちょ、ロンシャン服着て! ヒバリさんの妹さんがめっさ引いてる、引きまくってる!! ある意味マジで完膚なきまでに殺されるー!!!」
「テルミ!! 何故着信拒否なんだ!!?」
「聞けー!!!」


頭に青筋を浮かべながらぐーで男子生徒の頭を殴った沢田先輩。
それでもえんえんと泣き続ける男子生徒は、服を着るどころか沢田先輩の話を聞く気配すら皆無だった。
そしてそれは、文字通り火に油を注ぐ結果になる。


「喚く暇があったらせめて下だけでも服着なよ下劣。それとも日本語も理解できないの、この五月蝿い草食獣は」
「(火に油注いだ上に酸素も120%供給してるんですけどー!!)」


いい突っ込みを沢田先輩が胸中で入れたその直後、悲劇が再び起こった。
ズガン、と言う効果音とともに、今度は沢田先輩の頭にも風穴が開く。ドサリ、と倒れ、先程と同じ様にジッパーが現れてそれがどんどん開いていく。
現れたのは―――。


「俺に真っ黒コゲとか・・・どーでもいいよ・・・」


読み通り、パンツ一丁の沢田先輩だった。
私は更に顔を青褪めさせ、溜め息をつきつつ面倒くさくなって今度は身体ごと後ろを向く。少しだけ離れた所に、またスフィンクスの格好をしたリボーン君が面白そうに口角を吊り上げているのが見えたが、無視した。


「煮るなり焼くなり、どーにでもすればいい・・・」


ボコる寸前の相手にこんなこと言われた事無いのか、お兄ちゃんが少しだけ驚いた様な気配を背後に感じた。
沢田先輩は、未だに嘆き続ける。

『嘆きの境地・・・!』

何故か安心した様な聲が聞こえたが、きっと多分、十中八九、お兄ちゃんには火に油と酸素と温度を与えただけの様で。


「・・・死を覚悟した人間を倒す事ほど、詰まらないものは無い―――」


そんな、お兄ちゃんの声が聞こえて、私は心底驚いて目を丸くして振り返った。
半全裸二名はなるべく直視しない様に注意しながら、私はお兄ちゃんの背中を見詰めて。
同時、お兄ちゃんがちゃき、とトンファーを構えた。


「―――とは、思わない。」


さらり、と二人の私刑宣言を言い放つ。
にやり―――と、悪魔的な笑みを浮かべたのが背からでも判った。


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