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『う、売り上げが!』

「!」


雑踏の中、一際大きく響いた聲に顔を上げた。
隣の木に背中を預けてぼうっと空を見上げていたお兄ちゃんも、私に気付いてこっちを見てくる。
私はわたあめを手に持ちながら、ただその悲鳴の聲に耳を傾けた。

『あの子が噂の引っ手繰り犯!?』

この聲は―――?


(・・・沢田、先輩?)

『嘘ォー!! こ・・・コラー!!』

間違いない、沢田先輩だ。
でも変だ、沢田先輩の近くには、獄寺先輩や山本先輩も居る筈。なのに、聞こえる聲は沢田先輩のものだけだ。
まさか、商売が一段楽したとかで少し休憩に入っているのだろうか。沢田先輩一人になったところを、引っ手繰り犯が狙っていたとすれば―――確かに、お兄ちゃんから聞いていた引っ手繰られた時の状況と似ている点がいくつもある。


「・・・お兄ちゃん、」
「うん。何処?」
「神社の境内。階段を上がった所に―――被害者は、沢田先輩みたい」
「ふぅん・・・」


口角を吊り上げて、お兄ちゃんは笑って優雅な動きで立ち上がった。
私は、それに習って立ち上がる。浴衣についた泥や葉っぱを落としていると、ふと視線を感じてお兄ちゃんの方を見上げてみる。お兄ちゃんは顔を顰めて私を見下ろしていた。
文字通り、『着いて来るの?』とでも言いた気に。


「澪も、来るの?」
「うん。被害者、沢田先輩みたいだし」
「・・・一応知ってる奴だから?」
「違うよ。お兄ちゃんが間違って沢田先輩まで咬み殺さない様、見張る為」
「・・・・・・・・・。」


眉を寄せて、けれど溜め息を着いて踵を返した。無言は即ち、承諾の証拠。
くすり、と笑ってお兄ちゃんの後を追った。


「(―――別に良いけど、僕の傍、なるべく離れないでね?)」


小さく聞こえた聲が嬉しくて、頬が緩んでいくのを自覚した。























いざ、戦いの場へ。





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