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次の屋台とその次の屋台もショバ代をせしめていって、やっと全ての屋台から五万円落とせたのは、それから三十分ほど経った頃だった。
丁度、後三十分で花火が始まる時間帯でもある今、一段落した風紀の仕事に、お兄ちゃんが開けた場所で風紀委員を集める。
遠くの方にお囃子と雑踏が聞こえる中、委員の人は口を閉じてお兄ちゃんの声に耳を傾ける。屋外であり、尚且つ遠くにお囃子が聞こえるからか、お兄ちゃんは普段よりも少しだけ声を大きくして指示を出していた。


「取り敢えず、全部の屋台からショバ代はせしめられたけど、全員気を抜かない様に。ここ数年だけど、この夏祭り中に売上金が入った箱とか財布とかスられたって言う、引っ手繰りの被害が報告されている(本当に警察は何をやっているんだろうね)。昨日も何件か被害に遭ってるみたいだし、明らかに集団での犯行だろうと思うから、充分に目を光らせている様に。―――あぁ、現場見付けても捕まえないで泳がせておいて。溜まり場見付けたら僕に報告してくれれば、僕の方で片付けるから(序でに引っ手繰られた金も手に入れられて、文字通り一石二鳥ってね)」
(お兄ちゃん、悪)


沢田先輩みたく、胸中で突っ込んでみた。
私は風紀の集まりから少し離れた所で、木に背を預けてお兄ちゃんの背中を見ていた。
もう殆どの風紀委員は私の事を知っているから、もう奇異の眼で見られる事は無い。
確かに最初は「何だこいつ、」みたいな眼で見られたけれど(そしてそう言う目で私を見た先輩たちは、言うまでも無く何処かの誰かさんに咬み殺されていたけれど)今ではすっかり私の存在に慣れたのか、みんな大して私を気にしない様に―――いや、逆か。私に気を使う様になっていた。
一年なのに、何故か私にさん付けだし敬語だし(みんな揃って、草壁先輩でさえも『澪さん』って呼ぶの)。一方私はみんなを苗字に先輩って付けて、タメ口だけど。


「・・・澪は僕と行動だから。頼むからこんな込み合った場所で迷子なんて洒落になんない面倒事起こさないでね(そして妙な『聲』が聞こえたら直ぐに僕に報告する事。いい?)」
「―――私が迷子になるんじゃなくて、お兄ちゃんが何も言わないでどこかに行っちゃうんでしょ」
「・・・。じゃあ解散。」


逃げたな。

はぁ、と溜め息を着くと、何名かが私に労わりの視線を投げてから次々と散っていった。草壁先輩が最後までお兄ちゃんと何か話し、お兄ちゃんと私にも頭を深々と下げた後でどこかに消える。
―――かと思ったら、わたあめとジュースを持って現れ、お兄ちゃんに手渡してからまた頭を下げて消えた。
・・・パシリ?


「・・・お兄ちゃん」
「何?」
「・・・何でも、ない・・・」


自分で買って来なよ、って言いたかったけど、不機嫌になるだろうからやめた。
手に持っていたチョコバナナの、最後の一口をはむっと口に含む。
もぐもぐ、と咀嚼し、充分味わった後で―――ごくん、と飲み込んで。


(・・・美味しかった。)


また食べたいな、と思うほど、初めて食べるチョコバナナなる物はとても美味しかった。


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