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「―――あ、」


先ず沢田先輩が最初に気付いて声を上げて、けれど慌てて口を閉じる。ちら、とお兄ちゃんを一瞥し―――それと同時、お兄ちゃんはころんとカウンターに五百円玉を転がした。


「一本作って、釣りは要らない」
「え゙」
「なっ、テメェなんかに!!」
「はいよ、一本なー」
「(山本凄すぎ!!)」
「野球バカてめー!!」


お兄ちゃんの注文にへらりと笑って答えた山本先輩に内心突っ込む沢田先輩、喧嘩を売る相手を即座に彼に移した獄寺先輩。
ある意味凄いコンビネーションだと思う。三莫迦トリオってこう言う三人組を言うんだろうか。
割り箸に刺さったバナナを生チョコに浸しながら、山本先輩は自分の胸倉を掴もうと手を伸ばしつつやっぱり沢田先輩に必死に止められている獄寺先輩に向かってきょとんと答えた。


「何だよ、何怒ってんだ?」
「こんな奴に売るモンなんてねーんだよ! 作んな!!」
「いや、金出したんだから知り合いだろうと客になるだろ」
「(色んな意味で正論!!)」


不思議そうに首を傾げながら答えた山本先輩に、顔を引き攣らせながらやっぱり胸中で突っ込む沢田先輩。チョコからバナナを取り出した山本先輩は、それからトッピングをパラパラとかけて。


「はい、お待ちどーさま」
「ん」


出されたバナナチョコを受け取るお兄ちゃん。
・・・何だか異様な光景に沢田先輩、獄寺先輩、そして私もちょっとだけ固まった。早々見られない状況だと思う、お兄ちゃんが誰かから食べ物を受け取るなんて。
けど、お兄ちゃんはそのまま踵を返し、手に持つバナナチョコを私の前に出した。


「はい。」
「え、あ」


思わず受け取り、両手で持つ。目の前にあるバナナチョコをじっと見詰めていると、お兄ちゃんがもう用は無いと言わんばかりに私の横を通り過ぎながら「(次の屋台行くよ)」と聲をかけてきた。
その聲にハッとして、お兄ちゃんを振り返る。お兄ちゃんは、私を待つつもりは無いみたいだった。どっちにしろ、次の屋台と言うのは直ぐ隣の屋台のことなので少しくらい離れても大丈夫だろう。
私は先輩たちに向き直り、一番近くに居る沢田先輩を見る。


「あの、」
「へ?」
「最近、この辺で引ったくりが続発してるらしいから―――売上金とか、気を付けた方がいいよ」
「あぁ・・・えと、ありが―――」
「テメーなんかに心配される筋合いはねーんだよ! さっさと消えろッ」


お兄ちゃんの背後を苛々と睨んでいた獄寺先輩が、その怒りの矛先を私に向けた。
声の大きさに驚いて、私はびくりと肩を竦めて彼を見上げ、反射的に一歩下がって。

慌てて、頭を下げる。


「ご、ごめんなさい・・・ッ」


頭を上げると同時に踵を返し、お兄ちゃんの方に駆け寄っていく。
―――頭を上げたとき、驚いた様に呆然と私を見下ろしていた獄寺先輩が一瞬だけ見えた。

『獄寺君、怖がらせちゃ駄目だろ・・・』
『いえ、その・・・だってヒバリの野郎の妹ですよ?』
『だからって、怒鳴る事無いと思うよ? 相手は女の子で、しかも俺たちより年下だし』
『す、すみません・・・』
『ツナって意外とフェミニストなのなー?』
『えぇっ!? そ、そんな事・・・っ』
『テメェ野球バカ! 十代目をバカにするな!!』
『別にバカにしちゃいねーだろ?』

「あの五月蝿い奴に、」


お兄ちゃんの隣に並ぶと同時、そう声を掛けられる。
声に反応してお兄ちゃんを見上げると、お兄ちゃんはチラリと私を一瞥して、また前を向いて言った。


「何か言われたの?」
「・・・ううん、何も」
「ホントに?」
「うん。・・・だから、咬み殺しちゃ駄目だよ?」
「・・・。」
「拗ねないの」


少しだけムスッとしたお兄ちゃんを窘めた。


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