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“払えないなら、屋台を潰す”。
―――文字通り。


「待ってください!」

ガッ、バキッ!

「やっぱり払います!」

ドガッ!!

「払いますから!!」


組み立てられた屋台をヤクザキックで潰していくリーゼントの風紀委員。そして、彼らに泣き叫びながら縋り付く男性。―――私はその状況を、何と無く傍観していた。
周りに人が沢山居て、全員が風紀委員を敬遠していてなるべく関わらない様にしている。その所為もあってか、私には人々の聲が遠くの方でしか聞こえなくて、更にお兄ちゃんが比較的近くに居るから、お祭りに居ると言う状況にしては静かに過ごす事が出来ていた。
私はこう言う場所は本当に初めてだった。お祭りと言うものはテレビとか絵とか写真とか、要するに又聞きでしか知らないから、正直言うとワクワクしている。
視界の端で風紀委員が屋台を潰しているのは、ちょっと(いや、かなり)異常だと言うのはいくら私でも判るけど、私はそれを止めるつもりは無いし、もとよりお兄ちゃんがそう指示しているんだから私が口出しする事でも無い。


「ヒバリさんー!?」


丁度その時、背後から心底驚いた様に叫ぶ声を聞いた。声色には聞き覚えがある。本人の顔を脳裏に浮かべながら振り返ってみると、チョコバナナと掲げてある屋台の前に堂々と立つお兄ちゃんと、お兄ちゃんに怯えて腰が引けている沢田先輩、カウンターの向こうには以前にお花見のときにお兄ちゃんとバトった先輩二名―――獄寺隼人先輩と山本武先輩が居た。


「てめー何しに来やがった!」
「まさか」
「ショバ代って風紀委員に―――!?」
「活動費だよ」


頭に青筋を浮かべながらお兄ちゃんに喧嘩を売る獄寺先輩、引き攣った笑みで呟いた山本先輩、青褪めながら裏返った声で叫んだ沢田先輩。そして締めにお兄ちゃんが今更ながらに訂正を入れた。勿論、大義名分に満ちた白々しい言い訳を。
何だか雰囲気的に、先輩たちはショバ代を払わなさそうだった。ぎゃーぎゃーと(主に獄寺先輩が)お兄ちゃんに喧嘩を売っている。
沢田先輩が必死に止めようとしているけど、既に火が付いたのか獄寺先輩の怒りが収まる兆しは見えなかった。
山本先輩に至っては、獄寺先輩と沢田先輩のやり取りを笑って傍観しているだけ。
喧嘩を売られているお兄ちゃん本人も、無表情で彼らを見返している。
いい加減彼らのリアクションに飽きたのか、口角を吊り上げただけの笑みを浮かべて先の名台詞をポツリと呟いた。


「―――払えないなら、屋台を潰す。」


周りの屋台の人たちから話は聞いていたのだろうか、元々用意していたらしいショバ代―――諭吉さん五枚分を、沢田先輩が青褪めた顔をして獄寺先輩の手元から引っ手繰り、バッとお兄ちゃんに押し付けた。


「確かに」


五枚確り数えて(その間、沢田先輩はダイナマイトに火を着ける寸前状態の獄寺先輩を必死に宥めていた)、その後で踵を返そうとしたところで、ふと『チョコバナナ400円』と書いてある札を一瞥し。
同時、聲が聞こえた。


「(澪、おいで)」
「・・・?」


じっと見ていたのがバレたのだろうか、でも不機嫌そうな声色でも無い事に内心首を傾げつつ、チラリと壊されていた屋台を一瞥し―――お店の人が風紀委員に泣きながら五万円支払っていた―――、小走りにお兄ちゃんの所に駆け寄った。


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