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夏場の醍醐味、束の間の休息。


《 05 》






風紀委員、と言うのは本当に色々な事をしているらしい。
世間に取ってプラスになる事も確かにあるけれど、マイナスになる事も同じくらいに多い。けれども、一般住民に害を及ぼす、つまり『悪』と称される組織に属す人たちにはマイナスにしか及ばないだけまだマシなのだろうか。
要するに、一概に『百害あって一利なし』とは言えないのは事実。


「―――・・・何これ?」
「浴衣。」
「・・・見れば判るよ・・・」


確かに、今日は並盛町の夏祭りがある。それは判っているし、以前からお兄ちゃんに「夏祭りは出店からショバ代せしめに行くからね」と言われていたのも確かで。
夏祭りイコール、ショバ代せしめ。夏祭りイコール、浴衣。―――でも、ショバ代せしめるのと浴衣はイコールでは結ばれないと思う。ショバ代をせしめる為に態々浴衣着る必要があるワケ無いのだから。
それ以前に、私もお兄ちゃんも、人が沢山集まる所は嫌いだ。・・・と言っても、お兄ちゃんが嫌いと豪語する根本的な原因は私に―――正確に言えば、私の能力にあるのだけれど。


「人、沢山居るよ?」
「僕が近くに居るなら大丈夫なんだろう? だったら別にいいじゃないか」


昔に色々あったからか、こう言うとき、お兄ちゃんは絶対に自分の意見を私に押し付けないから不思議だ。
・・・まぁ、最終的な選択権は確かに私にあるけれど、八方塞がりで結局お兄ちゃんの思い通りに動くしかない、っていう事はあるけれど。
例えば、今回の様に。


「お兄ちゃん・・・」
「・・・着れない、って言うの?」


少し不本意そうに呟いたその言葉に、軽く俯いてコクリと頷いた。


「浴衣なんて・・・恥ずかしい、よ・・・」


俯いたまま小さく呟くと、お兄ちゃんは一瞬きょとんと私を見詰め、その後で呆れた様に溜め息を付いた。


「澪が着ないなら、その浴衣は捨てる事になるけど」
「・・・捨てる?」
「当たり前。“澪の為に”一ヶ月前からオーダーメイドしておいたんだから」


くすくすと面白そうに笑いながら、一部強調しつつのその言葉に、私は目を丸くしてお兄ちゃんを見上げた。
え、オーダーメイドってお兄ちゃん、それ如何言う意味。浴衣の代金、ちゃんと家のお金で払ったよね? 風紀のじゃないよね?
―――ほら、どっちにしても、この場合・・・。


「・・・私に選択権、ない・・・」
「それこそ当前だね。この僕が頼んでるんだよ?」


そんな会話が発端で、私は今日この日に生まれて始めて浴衣と言うものを着付け、下駄と髪飾りを着用し、夏祭り会場である神社へと向かった。
・・・正直言って、動き辛い事この上ない。


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