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先に口を開いたのは、リボーン君だった。


「澪の能力は何か、確認したくてな」


まぁるい目をお兄ちゃんに真っ直ぐ向け、リボーン君はそう言った。その言葉に、お兄ちゃんは軽く顔を顰めて見せる。その状態で、半ば睨む様にリボーン君を見詰めたけれど、彼に引く気は更々無い様だった。
諦めたのだろう、小さい溜め息をついたお兄ちゃんは、そのままチラリと私を肩越しに一瞥し。


「・・・澪、如何する?」
「―――えと、・・・私、リボーン君のこと、よく知らないから」
「話さない?」
「ううん。リボーン君の事は、お兄ちゃんの方が知ってるでしょ。だから、お兄ちゃんの判断に任せるよ」
「(そう言う答えが一番困るんだよね、責任重大じゃないか)」


顔を顰めて胸中で呟かれたその聲に、私はごめんねと言う意味も込めて小さく苦笑した。
お兄ちゃんは少しの間考える様に虚空を睨み付けた後、リボーン君を見て質問する。


「君は、澪の事を知って如何するつもりだい?」
「さぁな。知り得た内容によるぞ」


にやり、と口角を少しだけ吊り上げたリボーン君に、お兄ちゃんは言葉に詰まった様にまた顔を顰めてみせる。
思案する様に一瞬口を閉じて引き結んだ後、お兄ちゃんはもう一度リボーン君に質問を返した。


「・・・内容による、と言ったね」
「あぁ」
「なら―――君の仕事の邪魔になったり、とても危険だったりする場合。手に入れれば莫大な利益になる場合。如何するか、それぞれ答えてよ」


お兄ちゃんの言葉に、今度はリボーン君が口を閉じた。
数秒後、ピクリとも動かなかったリボーン君が漸く口を開く。


「どっちの場合でも何もしねーぞ」
「・・・は?」
「どっちにしても、それは澪の意思ではなくて、他者から強制的に“そうさせられた”場合に過ぎない。利益不利益のグラフ上では、澪は現在、丁度プラマイゼロの位置にいる。他者からの干渉は皆無だと仮定すれば、十中八九、これからもそこに居る。尤も―――ヒバリ」
「?」
「勿論、マイナスに傾けば立場的に『敵』になる。プラスに傾けば当然『仲間』だ。どっちに傾くかは、俺たちから見た“その時”のお前の立場に大きく左右される。でもそれは未来の話だ」
「・・・まどろっこしいのは嫌いだよ。結論から言って」
「じゃあ結論を言うぞ」


何だか難しい話に、私は当事者だと言うのに目を白黒させているだけだった。一体何の話をしているのか、サッパリ判らない。仲間だとか敵だとか、利益とか不利益とか、何だか物騒な言葉が次々と出てくる。私の事なんだろうけど、イマイチよく判らない。
確かに、『あの人たち』は私の能力を悪用しようとしたときもある。でも結局、失敗した。私に『その力』があったし、何よりもお兄ちゃんも居てくれたから。
お兄ちゃんが私を守ってくれる限り、私が危険になる事は、きっとない。


「お前がちゃんと澪を守っていられれば、少なくとも、俺らが澪の『敵』になる事は皆無って事だ」


一瞬、しん、と静まり返った。
今はもう、放課後になってから大分時間が経っているからか、校内に残る生徒はほとんど居ないはず。だとしたらこの静寂も頷けるのかな、何て思考の端でポツリと思った。―――現実逃避なのは判っている。何で非現実じみた話を現実で会話しているのかが判らない。
守るとか、守らないとか、変な話。私だって、仮にも並盛最強と謳われる『雲雀恭弥』の妹なんだし、人並み以上に体術の心得はあるつもりだ。ある程度なら自分の身はちゃんと自分で守れるのに、それなのに私の事を差し置いて私を守る、守らない。本当に、訳が判らなかった。
―――でも。


「・・・愚問だね。」


どこか自信たっぷりに、堂々とした笑みを浮かべて言い切ったお兄ちゃんに、何だか恥ずかしくなって。
恥ずかしさに耐え切れずに俯いて、お兄ちゃんの服を握りしめると、お兄ちゃんは頭を優しく撫でてくれた。
そうしながら、お兄ちゃんは辺りにそっと注意を払い、人が居ない事を確認してから足元に転がる先輩を一瞥、完全に気絶している事を確認してリボーン君を直視した。


「気付いてると思うけど、澪は人の心が判るみたいだよ。所謂、超能力・・・ってやつ、かな?」
「―――やはりな」


口角を吊り上げ、納得気にそう言ったリボーン君は、お兄ちゃんから私に視線を移した。彼に直視されて、私は少し驚いて肩を竦め、更にお兄ちゃんの後ろに隠れてしまう。
お兄ちゃんが、上から呆れた様な溜め息を付いたのが判ったけれど、それでも何だかリボーン君に見詰められるのは苦手な気がした。何時もは人を見透かす私が、逆に見透かされている様な気がしてならないから。


「澪。お前、いい能力に好かれたな」
「・・・え?」


声を聞いて、顔を上げると―――リボーン君が笑っていた。口角を吊り上げるだけの笑顔ではなく、ちゃんと、でも確りと私を見詰めて。


「(お前が、『姫君』・・・二代目“夜空”か)」


意味深な聲を、彼は胸中で呟いて。
彼は、その後で私からお兄ちゃんに視線を戻した―――と同時、がらり、とその場の空気が変わったのが判った。


「ところでヒバリ、相談事があるんだが」
「? 何?」
「実はツナが『風紀委員に入りたい』と言っていたんだ。入れてやってくれねーか」
「ツナ、って・・・沢田綱吉? 何時もキミと一緒に居る、強くなったり弱くなったりする彼」
「あぁ」
「・・・へぇ。それは面白いね」


まるで、それまでの会話はこれでおしまい、と言うかの様に。
尤も、確かに状況的に話は終わりみたいだったし、結局はリボーン君の好奇心から来た話題だったから、話題提供者である彼がもういいと言うのだからこれ以上追求するつもりは無いし、私も話題を掘り返すほど野暮では無いつもりだ。
けれど、リボーン君が胸中で呟いた言葉が、気になる。


(“夜空”・・・?)


私じゃない誰かが、私の中で小さく反応した気がした。
























それは、嘆くまでのプロローグ。





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