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更に強く壁に押し付けられながらも凄んで目と鼻の先にある苛立たしげな顔に、更に顔を歪めた。
本当に殴り飛ばしたかったけれど、学校でそんな事をしてはお兄ちゃんに迷惑が掛かるかな、と思うとどうも実行できない。―――ただでさえ、私が存在する事自体にお兄ちゃんに迷惑が掛かっているのに、これ以上お兄ちゃんの手を煩わせたくなんかなかった。
小学校の時なら、こう言う状況にあったら何故か必ずお兄ちゃんが止めに入ってくれていた。
けれど、多分、少なくとも今は無理だ。
お兄ちゃんは今頃、応接室で私が来るのを待っている筈、・・・なのに。


「何無視してんだよ?」
「・・・何、で・・・?」
「はぁ? わっけ判んねぇ。すっげぇムカツク」


目の前で凄む先輩のその背後に、無表情の裏に壮絶な怒りを隠しているお兄ちゃんが見えて、呆然と呟いた。
直後、お兄ちゃんが静かに口を開く。


「―――ねぇ、」


低く呟かれた声に、ぴたり、と押し付ける力がなくなり、先輩は凄い速さで後ろを振り返る。
今だ触れる手からは、それまでの苛立ちと憎しみは全く聴こえず―――変わり、大きな恐怖が渦を巻いていた。


「ひっ・・・雲雀、恭弥・・・!?」


先輩の声は引き攣って、少し震えていた。お兄ちゃんはそれだけで射殺せそうな冷たい視線で先輩を見詰め、そっと冷笑を浮かべる。
・・・あ、この笑みは危ない。途中で止めに入らないと先輩の命が確実に危ないかも。


「澪に、何、してたの?」
「な、ななななな何も・・・!!」
「ふぅん? 『何も』、ねぇ・・・じゃあ、その手は『何』?」


す、とお兄ちゃんが視線を動かした。明らかに、未だに私の胸倉を掴み上げている先輩の手元を見詰めている。
先輩もお兄ちゃんの視線を追って、それを見ると同時にさぁっと顔を青褪めさせ、その直後にバッと手を離す。突然の行動に驚き、そしてその勢いの反動で私はよろめき、思わず座り込んでしまった。
先輩は、そんな私に気付かずに必死にお兄ちゃんに弁解しようとするが、焦るあまりに舌を噛んでばかりで、マトモな言葉すら出てきてない。寧ろ、座り込んだ私を見てから更に苛立たしげに先輩を睨み付けたお兄ちゃんに気付いてなかった。
お兄ちゃんは、先輩を睨み付けたままで先輩の弁解すら聞く気も無い様に、「あの、その、」と続ける彼の言葉を遮って低く呟いた。


「・・・胸倉掴んでる、って言う状況は―――『何もしてない状況』に、当て嵌まるのかい?」
「いえ、その・・・!」
「だとしたら君は、とんでもなくおめでたい思考回路をしているんだね」


腕を組んでいたお兄ちゃんの手が、そっと外される。手には既に、トンファーが握られていた。
息を呑んだ様に短い悲鳴を上げる先輩に構わず、それを振り上げて。


「・・・咬み殺す。」


座り込む私の直ぐ隣で、風紀委員長直々の制裁が下された。


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