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次の日の事、だった。
この日は、授業が半日で終わった。でも、風紀委員は午後も仕事があるらしいから、今日は私もお兄ちゃんもお弁当持参。私は二人分のお弁当が入った鞄を持って、これから応接室に向かうところだった。
ブレザーを着たのは、入学式の日だけ。今日からは風紀委員の腕章を腕に着け、セーラー服を着用。先輩たちからは異様なものを見る目で見られて畏怖され(何と無く理由は判るけど)、クラスメイトからは不思議そうに敬遠されている。
別に、それが嫌だとは思わない。寧ろ好都合だと思う。だれも私に近付かない代わり、余計な聲が聞こえないで済むから。
―――そんなとき、だった。


「(風紀の腕章? 女で?)」


聲が、聞こえた。渡り廊下、たった今擦れ違った先輩だろう男子生徒以外には誰も居ない。十中八九彼だろうと思いつつ、無視して更に足を進めようと、した―――完全に油断していた、その時だった。
彼に、腕を掴まれたのは。
・・・聲が強くなり、びくりと肩を竦めて振り返る。


「お前、女子で新入生なのに風紀やってんの?(だとしたらすっげぇムカツク。生意気すぎ、新入りの癖に)」
「・・・・・・、・・・」


明るい茶に染めた長めの髪、ブレザーの前は開かれたままで、数個しかボタンが止められていないYシャツからはその奥に柄付きのTシャツが見える。
ネクタイはだらしなく、酷く緩く止められていた。
Yシャツは勿論、ズボンの中に入っているはずも無い。
ズボンに至っては、だらしなく少し下げ気味だった。
―――明らかに、校則違反者。


「俺さぁ、風紀委員に何度か指導受けてんだよな。マジむかついてんだ」
「―――・・・」
「今朝だって制服がどーなって文句付けて来やがってよ。あの莫迦みてーリーゼント、何度ボコボコにしてやりたかったか」
「・・・私には無関係でしょ」
「風紀ってだけで充分関係してんだろーが」
「注意されるのが嫌だったら、ちゃんと制服を着ればいい。二度と指導なんて受けずに済むんじゃない?」


次々と聲が聴こえる。「(風紀委員が風紀乱してるくせに、俺を指導する権利ねーだろ)」「(俺より酷い奴居んのに、何で俺ばかり指摘すんだ。マジムカツク)」「(委員長が居なけりゃ弱いくせに、)」そんなマイナスの言葉が大量に響いてくる。その聲に怯えて、けれど呆れ半分に答えると、けれどそれが相手にとっては“見下した”様に言われた、と取るものなのだろう。
刹那にして目を吊り上げた彼は、私の腕を離す代わりに胸倉を掴み上げ、(あぁ、鞄が落ちた、お弁当大丈夫かな・・・)そのまま壁に打ち付けた。


「ッ、・・・!!」


驚いて目を見開いて、でも直後に襲った痛みと息苦しさに顔を歪める。ぐ、と体重をかけられたのだ。


「・・・はっ、風紀に属していても弱ぇ奴は弱ぇんだな。何でテメェなんかが居るんだか・・・ただの口達者なクソ女だろ」
「―――ッ」


薄目を明けて彼を見ると、苛立たしげに顔を歪めて私を睨み付けている。
触れる手から伝わる彼の聲は、酷い憎しみと苛立ちが沢山で、聲らしき聲は欠片も含まれて居ない。
直接流れ込んでくる、吐き気がするほどの大量のその聲に、私は酷い頭痛と吐き気も息苦しさに上乗せされた。


「何か言ったら如何なんだよ。それでも“風紀委員”か? あぁ!?」


・・・この人、殴り飛ばしたい。


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