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「・・・入ってる・・・」
「入ってるな。はたきの布の部分だが、確かに入ってはいる」


私の呟きに、リボーン君が頷いて。
喧嘩してる時に嫌そうに顔を顰めてるお兄ちゃんって始めて見た。互角に張り合える相手なんて草々居ないのに、楽しそうに口角を上げるどころか一撃を受け止め、受け止められ、そうしている回数に比例して苛々度が上がっている気が。
・・・確かに、ぽふぽふと叩きの布に攻撃されてて楽しめるわけないけれど。
その時。


「―――い゙!?」


鬼の様な形相をしていたツナさんが、何故か行き成り、今までの様な情けない顔付きに変わる。
お兄ちゃんはそれに気付いていながらも、けれど毎度の事なのだろうか、トンファーを振るう手を止めようとする気配は皆無。
それどころか、少し拗ねた様に顔を顰めて一歩踏み出して、


「わっ、ちょ! 待っ―――ひいぃッ!」


焦った様にツナさんがストップをかけても、構わず―――それを知ったツナさんは、両手で頭を庇い、目を閉じた。
―――逆に、お兄ちゃんは目を大きく見張ったのが見えて、直後にその身体がふら付いた。身体を支えようと足が動いたけれど、それでも支えきれなかったらしく、そのまま・・・膝を、着く。
お兄ちゃんの、負けが決まった。


「・・・ッ、」


思ってもみなかった唐突な敗北は、けれど別に如何でも良かった。それよりも、あまりに不自然なお兄ちゃんのその様子に不安になって、慌ててお兄ちゃんに駆け寄る。
ツナさんたちが何だか騒いでいるのも気にしないで、私はお兄ちゃんの隣に同じくしゃがみ込んで、そっとその身体を支えた。


「どうしたの、お兄ちゃん大丈夫・・・!?」
「・・・あ。ごめん澪、負けた」
「そんなの別にいいよっ、何で? ツナっていう人に何かされたの?」
「さぁ・・・。よく判らないけど頭の中がぐらぐらする。何か気持ち悪いかも」
「・・・っ」


表面上なんでも無い様に見えるけど、膝を着いているこの状態でも身体がゆらゆらと不安定に揺れている。
不安になって、お兄ちゃんの服をぎゅうっと握り締めた。
その時聞こえた台詞に、


「違うぞ、奴の仕業だぞ」


彼らの方を見る。
その台詞を言ったリボーン君は、その小さい指をむくりと起き上がったドクターの方に向けていた。


「シャマルは、殴られた瞬間にトライデント・モスキートをヒバリに発動したんだ」
「あの酔っ払いがそんな器用な事を!?」
「わりーけど、超えてきた死線の数が違うのよ。ちなみにコイツにかけた病気は、桜に囲まれると立っていられない『桜クラ病』つってな」


うんたらかんたらと判らない変な病名を述べて、説明して。
聞いてるうちに私は腹が立ってきて、ドクターを睨み付けていた。「(澪、)」そう呼ぶ聲がしてお兄ちゃんの方を見ると、駄目だよ、と視線で制される。少し顔を顰めると、お兄ちゃんは小さい溜め息を着いて立ち上がった。
驚いて顔を上げ、けれど途端にふら付いたその身体を慌てて支える。


「あ、ヒバリさん!」
「・・・約束は約束だ」


そっと踵を返したお兄ちゃんに、ちょっと眉根を寄せた。
気付いているだろうに、お兄ちゃんは一瞥しただけでまた彼らの方を見て告げる。


「精々桜を楽しむがいいさ」


そう言って、一歩踏み出して。
―――でもやっぱり、その変な病気に掛かった所為か、フラフラと足元が覚束無くて確り前に歩けていない。慌てて支えようと思ったけど、「(ある程度なら歩けるから大丈夫、)」そう言われて渋々手を離して。
でも心配だから、直ぐ隣を歩こうとして、歩き出した、その時だった。
・・・肩に回る手に身体を強張らせたのは。


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