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まぁつまり、初対面の人間に、兄妹である事を悟られる様な似通った容姿ではない事は確か。だからか、『ヒバリキョウヤ』を知っている人物ならば、私がその隣に佇んでいるその様子はあまりにも奇妙に見えるものらしくて。
だから、彼らは最初に不思議そうに首を傾げた。妹と言う事で少しは納得したみたいだけど―――それでもまだ訝しそうに、銀髪の人が口を開く。


「・・・お前、妹居たのか?」
「悪い?」


問われ、ムスッとした表情でそう返したお兄ちゃんに、茶髪の子は「悪くないです!!」と顔を青褪めながら叫び返した。手は見事に頭の上へ。そのまま一歩後退り、結果的に倒れていた風紀委員に躓いた。
驚いて足元を見た彼は、そこで初めて―――彼の風紀委員の腕章を見止めたらしい。


「あ、この人風紀委員だったんだ・・・!」
「・・・僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね。彼に追っ払って貰っていたんだ」


正確に言えば、“彼らに”・・・だけれど。
とか思って内心溜め息を付いていると、お兄ちゃんが彼らに近付いていったのが判る。私は、お兄ちゃんに「(澪は下がってて、)」と云われたから、この場に待機する事にした。
三人に近付いていくお兄ちゃんに反し、彼らは少し下がって―――軽く構える様に前の二人は腰を小さく落とし、茶髪の子はその後ろで怯えていた。それを不思議に思って内心首を傾げて。


「―――けど、」


次に耳が拾ったお兄ちゃんの声にそっちを見ると、お兄ちゃんは風紀委員の人を見下ろしていた。彼は地面に四つん這いになり、お兄ちゃんを怯えながら見上げている。


「・・・君は役に立たないね。後はいいよ、自分でやるから」
「い・・・委員長、」
「弱虫は、」


風を、切る音が聞こえた。


「土に還れよ。」


ガッ、とトンファーが彼の頭を殴打し、短い悲鳴を上げて彼は地面にもう一度倒れ込んだ。あの人殴られるだろうな、と言う予想は確かにしていたけれども、その速さに私は驚いて一瞬目を見張る。
・・・ここ二年ほど、確かにお兄ちゃんのトンファーを振るう姿は見ていない。たかが二年でここまでもスピードが上がるものなのだろうか。けれど、辛うじて私の目はその第二撃目を撃とうとしているのを確認できた。
息を呑み、その後でお兄ちゃんを止める。


「お兄ちゃんっ!!」
「ッ、」


反射的、なんだろう。
お兄ちゃんは一瞬だけ驚いた様に目を見開いて、そして二撃目のそれを見事寸止めして見せた。それを見てホッと小さく息を吐く私を一瞥したお兄ちゃんは、詰まらなそうに顔を顰めながらトンファーを引っ込めて、風紀委員から目を逸らして口を開いた。


「彼女に感謝するんだね・・・次に何か失敗したら咬み殺すから。―――行っていいよ」
「ッ、は、はいッ!!」


額からドクドクと血を流しながらも、その言葉にビシッと立ち上がってお兄ちゃんに頭を下げ、私の方にも深く頭を下げた後で彼は逃げる様に去って行った。お兄ちゃんは彼の背後にさえ一瞥もくれず、トンファーに付いた血を払う様にそれをヴンと一回振るう。
ぱし、と再度腕側に収めたトンファーを見下ろしながら、呟いた。


「・・・僕は屍の上に立ってる方が落ち着くんだけどね」


要約すると、『今回は見逃してあげるけど、これから咬み殺すのは止めないでよね』、と言う事。―――つまり、私への小さい嫌味だ。てゆーかお兄ちゃん、その台詞私じゃなくて少年三人組を脅してるから。お兄ちゃんの嫌味に慣れた私は如何って事無いのが物悲しい。
ふ、と小さく溜め息を付いた私は、お兄ちゃんを一瞥した後で少年たちに視線を向ける。と同時、彼らの背後に映ったその光景に、思わず目を見張った。


(―――赤ちゃん?)


漆黒のスーツをびしりと決めた一歳ほどだろう赤ん坊が、桜の木の枝の上にちょこんと腰掛け、何とも言えない(いや、微妙に楽しんでる様な?)表情で此方の様子を眺めていた。
更に、その桜の木に隠れる様にして誰かが居る事に気付いた。太い幹の横から、時々ひらりと白い服が見える。
赤ん坊とその人物に共通する事。


(気配が、無い?)


やり方は如何あれ、確かに一応は並盛の秩序を保っている雲雀恭弥の妹。一般人と比べれば、そう言ったものに敏感である自覚はある。けれど、彼らは―――そう、『何時の間にか』そこに居たのだ。


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