放課後を告げるチャイムがデュエルアカデミアに鳴り響いたところで、彼は一目散に私の目の前にやってきた。何事かと思って訳を聞けば、一緒に冒険しようとだけ言われてしまう。返事をするや否や、彼に手を引かれてあちこち連れていかれる。私はそんな直情的な彼に振り回されることが好きだった。私の知らない世界を見せてくれたり、私の中にない発想から繰り出される言動は、凝り固まった私の心をほぐしてくれるのだ。二人で色々なところを訪れ、しっかりと楽しんだあと、海が見下ろせる小高い丘の上に腰を落ち着けた。
 
「ようやく、座れるね」
 
「何だよ名前、嫌だったのか?」
 
「ううん。大好き」
 
私達以外誰もいないのをいいことに、私は彼に向かって満面の笑みでそう告げた。「なら、よかったぜ」と赤く頬を染めて呟く彼の瞼には瞬きが増え、微かに動揺の色が混じる。可愛らしい反応だと思いながら私は彼に向き直った。
  
「その……こうでもしないと名前と二人きりになれないじゃん」

「えっ?」

「どこいったって俺はデュエルばっかりだろ。たまには名前とのんびりしたいのにさ。人気者は困っちまうよなぁ」

「ふふっ、そうだね」

十代は面映い顔をしながらも、誇らしげに自分が人気者だと告げる。とても分かりやすいアピールだった。だから私はきちんとそれを肯定しながら彼の熱い手を握る。同時に彼は私の名を呼んだ。

「名前……」

「うん?」
 
「近くに来いよ」

「分かった」

彼と向かい合っていた私はおもむろに立ち上がり、十代の隣にすとんと腰かけた。普段より密着していても、今だけは誰にも怒られない。横から伸びてきた彼の手は私の肩を捉えていた。それから、ぎゅっと自分の方へ私を引き寄せてくる。そんな風に求められながら、私は十代の肩に頭を乗せた。

「……すっげぇ落ち着く」

「うん」

彼の顔は見えなかった。けれど、その甘い声を聞いているだけで、自分だけにしか見せない表情をしているのだと分かる。

「俺さ、明日からもまた頑張るよ」

「そっか」

「たった今、名前に元気をもらったからな」
 
嬉しそうな言葉を浴びて、私の胸奥に穏やかな優しさが満ちていくようだった。すると彼は空いていた方の手で私の手を一つ取る。

「名前は、いつもあったかくていいよな」

「十代もあったかいよ」

「そうか?」

「うん。私、そういうところ好き」

一人でいるより二人の方が何倍も温かい。そう告げるつもりで言葉を発した。けれど、彼の無垢な瞳を見ていると上手く言葉が出てこなかった。そうとも知らず、十代は握りしめた私の手に徐々に力を込めていく。

「二人だけの時に、そんなこと言うなよな」

「ふふっ、ごめんね」

「ヨハンとか他の男には言っちゃ駄目だからな」

「大丈夫。そんなことしない」

「あはは、適当に流したらこうだからな」

そう言って彼はぐいっと近寄り、私の瞳を至近距離で覗いた。おちゃらけていた目元が一気に真剣なものになる。不覚にも、どきりと胸が跳ねた。

「……名前に本気になってる俺が馬鹿みたいだろ?」

「十代……あのっ」
 
彼は私の返事も聞かず、強引に唇を押しつけてきた。普段の子供っぽい彼とは打って変わって、今私に触れているこの唇は私を独占したいと言いたげに、何度も何度も強く吸いついてくる。引き剥がそうと思っても、男の力には敵わない。根負けした私は、彼の気が済むまでその身を預けることにした。
 
「分かったか?」
 
「はいはい。誰かさんが私を好きっていうことは、すごくよく分かりました」
 
「ああ。くそっ、まだ名前と離れたくないなぁ」

十代は、またいつものような無邪気な声で騒いだ。しかし、地平線に夕日が差しかかってくるのを眺めながら名残惜しそうに眉を下げる。私はそんな顔すら愛おしくて、思わず笑ってしまった。

「それなら、また明日も十代と一緒にいるから、これで許して」

 そう呟いて、私は彼の頬に触れるだけの軽いキスを落とす。

「せ、積極的だな……名前」

「十代しか好きじゃないから。わざとこうしてるの」
 
私はその場から立ち上がった。したり顔で彼を見下ろす。頬が赤いがきっと差し込む夕日のせいかもしれない。口をぽかんと開けたままの彼をくすくすと笑いながら、私はブルー寮まで戻っていった。
 
 
kissing cousins
(困らせたくて堪らない私達)
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