遊城十代という人間はつくづく冷たい。周りは彼を太陽だなんて誉めそやして羨むけど、私は全くそう思わない。彼が太陽であるものか。
「なあ」
よく聞く声音で呼ばれる。全身をゆっくり撫でるような、否応なく反応してしまう声。それは耳裏を逆撫でし、私は床に広げたカードたちに目を遣りながらそれに返してやる。至って平坦な、普通を装った声で。
「抱き締めてくれねえ?」
「ん」
短く返して振り返る。レッド寮には現在十代しか住み着いていない。足繁く通っていた翔くんは用事があるからと朝から姿を見せて居ないし、万丈目くんや三沢くんも同様に私用にかまけている。留年生のコアラくんはもう居ない。翔くんがイエローに上がった時点でここは彼だけの家になってしまった。あの頃の賑やかな歓声がぱったりなくなって、今じゃそれを懐かしむ自分が居る。あの頃は良かった。純粋にデュエルを楽しみ、勝利を求められた。
「おいで」
「悪いな」
腕を広げたら重量感を伴った熱が飛び込んでくる。涼し気な洗剤の香りが舞い上がり、鼻を突き抜けた。丸い頭が穴を掘るようにぐりぐりと押し付けられ、私は頭を撫でてやることにした。滑らせるたび彼の茶色の髪が指の間をすり抜ける。心地よいのか彼の肩が見て解るほど垂れ下がった。これだけ見たら大型犬と結び付けるだろう。背中に回された腕がきつくなる。
「じゅう」
「もう大丈夫だぜ!」
ぱっと離され腹に溜まっていた暖かさが急激に冷えていく。十代が浮かべる表情は清々しいばかりであった。歯が窓から射し込む陽光に照らされ、健康的な白を輝かせる。
「そう」
ならいい、そう言って再び背中を向けた。それっきり彼との会話はなく、部屋は無機質的な静けさに包まれる。冬の入口に立った季節の陽射しはこうも冷たいものか。窓の正面に座っていると言うのに少しも暖かくない。この温度はまるで十代を表しているようだ。デッキの調整にかまけていると後ろで扉が開けられる音が聞こえた。立て付けの悪い扉は軋みながら閉まる。やっぱり遊城十代は冷たい人間だ。