ファラオが時折眩しく映る時がある。
「あっ」
今だってそうだ。気の置けない神官と笑い合う様は、まるで長年の付き合いがある友人のよう。屈託ない笑顔を私ら共に向けてくださるファラオで、過去にも未来にも私の心に深く刻まれるのは彼ひとりしか居ないだろう。少々子供っぽいところがあるファラオ。気さくで、活発的で、それでいて聡明な方。太陽神になるべくして産まれ落ちたような王だ。だからその方が眩しく映るなんて自然なこと。
「お前はつくづく突拍子もないことを言い出す奴だな」
「そうですか? でもファラオには負けますよ」
本来はファラオのためだけに作られたパンを、王の気前の良さで私も少々分けてもらえることになった。食べやすい大きさに切り分けられたパンは、見た目通り固くてちょっとじゃりじゃりしてる。歯を削り取るような感触を苦手と思いつつも、食べたことない感触に驚く一面も実感していた。いつも思っていることを有り体に話せば、ファラオは目を瞬かせながら笑う。
「私、ファラオの笑った顔好きですよ」
「初めて言われたぜ、そんなこと」
「言わないだけでみんなもそう思ってます。ファラオがご健勝であらせられるだけで、みんな元気になりますから」
「そうか」
言って、固いパンを口へ放り込む。天上にて威厳を放つ太陽の光が射し込む中庭にからっ風が吹いて草がそよぐ。ざざざと滝が水たまりに打ち付ける光景を見ながら、私も固いパンをひとくち頬張る。やっぱり固い。人の手で作られた滝を見てると、段々口の中が乾いてきてしまって困った。水の中で泳ぐ蓮の花を退けて少しだけ飲んでしまおうか、なんて不埒千万な考えが過ぎった。
「お前は、俺の笑った顔で元気になるのか?」
そんなの私でなくてもそうだろうと思ったけど、今聞かれていることは違う。私自身の答えを聞いている。けれど私に迷う必要などなかった。
「とっても」
ファラオが笑う姿は、それだけで身体と心が温かくなる。自然と笑みが声になってしまうほどに。ファラオは迷いなく言いきった私に白い歯を見せて破顔する。
「俺もお前の笑った顔は好きだぜ」
あ、今も。太陽の光を受けて笑うからこんなにも眩しいのか、ファラオが笑うからこんなに眩しく映るのか。太陽の粉をまぶしたかのように、目をちかちかさせる神々しい光を醸し出すファラオは、やっぱり太陽神そのもので。でもその笑顔に少しだけ幼さも感じた。この笑顔がずっと続きますようにと、どこまでも澄んだ空に密やかに願うのだった。